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ネイティファス
淫語ボイスドラマ製作サークル ネイティファスのブログです。

カードゲームSS

何も予定はないものの最近はカードゲームに執心です。

先月はハースストーンのランクを無心で回してたら初のレジェンド到達。
出たばかりのシャドウバースでルナちゃんでAランクいきました。

シャドウバースは絵柄もかわいい子が多いので
貢ぎ課金行為もかなり捗ります。

特に課金してランダムでしか入手できないプレミアムカードが、
服の裾がひらひらしてたり胸揺れ(?)してたりするので
誘惑的な意味で課金を促されます。


んで、ハースストーンのパラディンとプリーストを混ぜたような
コントロール系サキュバスデッキのヒーローを妄想したのでSSにしておきます。
昔誘惑のカードゲームを書いたころより随分知識がついたとしみじみ思います。





魔女アルルーナのサキュバスドリーム




「ユータ君。『ライトロゼッティア』全国大会優勝、本当におめでとう♪」
「い、いえ。単に運がよかっただけです。他にも僕より強い人はいっぱいいたし……」
「もう何言ってるの? 運も実力の内よ♪ さぁ入って入って♪」
 ここは大人気カードゲーム『ライトロゼッティア』開発本社、エクスフレイムの一室だった。
 最新型のVR技術を導入した、疑似仮想空間による極めて臨場感あふれるカードバトルは、少年少女含めてお兄さんからお姉さんまで一大センセーショナルで超加熱的な人気を博した。
 可愛らしいデザインで親しみやすいキャラクター。簡易かつ明快でありながら、噛めば噛むほど味が出る奥深いルール。特に二か月に一回というハイペースで更新される、魅力的な新カード群は、他のいかなるオマージュゲームにも追随を許さないクオリティである。
 ゲーム大好きユータ少年も例に漏れず、どっぷりとこのゲームにはまり、めでたくつい先日の公式『ライトロゼッティア』大会で優勝したわけである。
 そして今優勝賞品として、未だ未発表の新ヒーロー体験会に招かれたのだった。
「うふふ♪ 何緊張してるの? 決勝戦のあの最終試合では、あんなに凛々しかったのに♪」
「え、いや……」
「私感動しちゃったなー。『ディオール』VS『シルビアン』の圧倒的相性不利を覆す、超絶プレイング♪ 何度も終わりかと思った局面からの逆転につぐ大逆転! 本当に見とれちゃったわぁ……♪」
「あ、ありがとうございます……」
 ぴったりとした黒スーツの、スタイルのいいセクシーボディランが魅力のお姉さん。洗い立てのシャンプーのいい香りがしそうな黒髪がふわりとなびき、純朴な少年ユータに何か意図ありげな流し目をくれた。
「やっぱり優勝する子って何か違うわね♪ 私なんて同じデッキ使ってても、きっと全然勝てないわ」
「そ、そんなことないですよ」
「もー。別に謙遜しなくていいのよ。君の実力はお姉さんが一番わかっているからね。あ、私の自己紹介がまだだったわね。私はエクスフレイム広報の、皇果林(すめらぎかりん)って言います。よろしくね♪ ユータ君♪」
「は、はい。よろしくお願いします」
 ドキリとするような大粒のウインク。元来人見知りな性格で、同級生の女の子ともあまり話したことのないユータはこの攻撃にどぎまぎしてしまった。
「あー。顔真っ赤にしちゃって可愛いんだー。さー早速プレイしましょ♪ 前もって聞いてたと思うけど、ユータ君には出来立てほやほやの新ヒーローと対戦してもらいま~す♪ もちろん準備はいいわね?」
「は、はいい……」
「うふっ♪ 戦う前から気圧されてるぞ少年♪ でもいざ対戦に入ったら、ビシっと決めてくれるんでしょうね♪ さー対戦台に座って♪」
 ポンと肩を叩かれ着席する。同時に圧倒的臨場感を体験するための、VRビジョン機能搭載ヘッドセットがウィィンと金属的な音と共にユータの頭部へとゆっくり迫る。
「やっぱりこれよね。『ライトロゼッティア』を本気で楽しむなら、絶対VR機能でプレイするべきよね。面白さが全然違うもの。……っと、ここをこうしてこうしてはい装着完了♪」
「わぁっ。これ新ステージですね。何だか怪しげな宮殿……。新ヒーローってどんなのだろう。ドキドキ……」
 一足早く、VR空間に入り込んだユータ少年が言った。辺りに立ち込める薄ピンクのもや、ねっとりと湿気を含んだような大理石の壁が、異世界に迷いこんだような雰囲気を醸し出していた。
「それは見てのお楽しみ。じゃあ私もセットつけてと……。はい準備オッケーよ。さ、ゲーム開始しましょ。まずはヒーロー選択からね」
「あ、僕カード持ってきました。自分のデッキでやりたいから……。ヒーローは、ディオールで」
 ユータが選んだヒーローキャラは、ローゼス王国の若き青年剣士ディオール。展開力とコンボ火力に優れ、豊富なウェポンを使った除去により序盤中盤終盤と非常に隙がない。ヒーロー専用キャラの能力も高めで初心者にも扱いやすく、相手に何もさせないまま封殺するこもままある。『ライトロゼッティア』では強ヒーローの一人としては必ずと言っていいほど名が上がる。
「そう準備がいいのね。さーて、お姉さんのヒーローはと♪」
「わわっ。これ、女の人……。」
「うふっ♪ 全世界でユータ君にだけ一般初公開よ♪ 華麗に妖しく妖艶に♪ 封じられたサキュバスを召喚するデビルサモナー、アルルーナお姉さんがお相手よ♪」
 全身を覆う黒いフード。襟ぐりは緩く、空いた隙間には艶めかしく白い巨乳が目にまぶしい。紫の色のルージュを穏やかに口元にたたえ、冷酷そうな切れ長の瞳が彩を添える。肌は一度も日を浴びたことがないと思えるほど白く透き通り、白蛇のようにねっとりとした指先が、手持ち無沙汰げに水晶玉に置かれている。
「あ~ん♪ お姉さんの宮殿に侵入するのはだぁれ? 何が目的? ロゼッティアの秘宝の手かがり? それとも私が集めた指輪や魔道具や金銀財宝? この荘厳なる大宮殿? それともそれともぉ……。あっ、もしかしてお姉さんの肉体が欲しいのかしらぁ? うふふふっ♪」
「えっ? ちょ、ちょっと。か、果林さんですよね?」
 ユータはひとしきり面食らった。いきなりセクシーな雰囲気の魔術師風の美女に目を奪われたから。
「もちろんよ♪ せっかくVR仕様なんだから、そのキャラになりきって楽しまなくちゃ♪ アルルーナお姉さんはね、一目冷淡そうだけど、結構天然でおちゃらけてておまけにセクシーでちょっとエッチでユータ君みたいな少年が大好きなお姉さんなのよ♪ うふふっ♪ ……って設定ね♪」
「は、はぁ……」
「もうぽかんとしちゃって♪ でもその顔も可愛い♪ はぁん♪ それにしてもディオール君もユータ君に似ててイケメンね♪ 積極的にアプローチしたくなっちゃう♪ やっぱりVRっていいわねぇ……。本当はいないのにそこに人間がいて現実のようで仮想現実でその世界に入り込めて……」
 とろんした表情で恍惚顔のアルルーナこと果林お姉さん。その悩ましげな表情にドキリとしてしまう。
「あ、いや。そんなに僕はかっこよく……」
「あらぁん♪ お姉さんの前では正直になっていいのよ? ディオール君が、自分にそっくりでかっこいいから選んだんでしょ? ねぇねぇ?」
「い、いえ! 僕そんなんじゃあ……」
「うふっ♪ 冗談よ♪ はーい早速ゲーム開始開始♪」
「ふ、ふぇぇ……」
 ユータはくねくねと魅力的な姿態をくねらせる、アルルーナに振り回されていた。ともあれ聖なる秘宝『ライトロゼッティア』をめぐる戦いの火蓋はきって落とされたのである。
「あ、私が先行ね。うーんマリガンは適当に……。あっ、挨拶しなきゃ♪」

 ――ふふっ♪ 何が目的? お姉さんが遊んであげる♪

「あっ。色っぽい声……」
「そうよ。アルルーナお姉さんは色っぽいのよ。せっかくだから他の感情表現機能も試してみようね♪」

 ――ありがと♪ お姉さんの実験台になってくれて♪

 ――負けてくれたら、いいことして、あ、げ、る♪

 ――う~んお姉さん困っちゃう~ん♪

 ――わぁ♪ びっくり♪ 驚いちゃう♪

 ――お姉さんの魅力に屈服しちゃいなさい♪ ほら、は、や、く♪


「あっ、はわわ……」
 挨拶、感謝、からかい、悩み、驚き、止めの一言――と、それに対応する台詞がアルルーナから放たれる。どれも性的経験のない少年にとっては刺激的なものだった。
「うふっ♪ これぐらいかな。ちょっとあざとすぎるかもしれないけど」
「あざといっていうか何というか……」
「もうたじたじね。ねぇちょっと想像してみて? ちょっとこっちの形勢が不利な時に、セクシーなお姉さんに負けてくれたら~~って言われたら♪ ねぇどうするぅ? ねぇねぇ?」
 豊満な谷間をみせびらかすように話しかけるアルルーナ。男の目を焦がす、魅惑的な球体がユータを否が応にも誘惑していた。
「え、そ、そんなのぉ……。しょ、勝負にそんなのいけないから……。というか僕は相手の感情表現はいつも切ってるから……」
「もーっ。そんなの駄目っ♪ いけない子♪ せっかく開発の人が作ってくれてるんだから、感謝して楽しまなくちゃ。ゲームってコミュニケーションが大切よ♪ ねっねっ♪ ラブラブ密着の体と体のコミュニケーション♪」
「ふ、ふわぁぁ……」
「あーん反応が可愛いから、試合の途中で本当に誘惑しちゃうかも……♪ だってお姉さん素人だし。ユータ君はとっても強い全国大会優勝者だし……。ねっそれくらいハンデとしていいでしょ? ふふっ♪」
「そ、それぐらいなら……。でっ、でも僕負けません。真剣にやります……」
「ふふっ♪ その意気よ♪ お姉さんも本気でぶつかってくれた方がいいわ♪ キャラとかスペルの調整にも必要だしね。それじゃレッツスタート♪」
「は、はいよろしくお願いしますっ」
 


「え~っと。一ターン目は……この子♪ リトルインプちゃん出ておいでっ♪」

 ――はいご主人様~♪ 何でも御用、お言いつけくださいませっ♪

 可愛らしい音と共に、まずアルルーナの盤面に一体のキャラが召喚された。少女の容姿で角と尻尾と羽が生えたまさしく小悪魔といったキャラだ。
「リトルインプ……。1コスで……攻撃1で体力2? なんかぱっとしないな」
「もーぱっとしないとか言わないの♪ 可愛いからいいでしょ♪ この子は何も能力ないのよ♪ ただ可愛いだけ♪ こんなのがいてもいいでしょ♪」
「は、はぁ。何か調子狂っちゃうなぁ……。でも僕油断しませんよ。僕のターンは……ロゼッタコインを使い、2コストで勇敢なるローゼス騎兵を召喚!」
 ユータの盤面攻撃3体力2のキャラが配置される。単体で出すには能力なしだが、他のカードとのシナジーによりバフを受ける可能性があるのでほっとけない存在である。何より攻撃1で体力3以下のキャラに一方勝ちできるのが普通に強い。
「あんっ♪ いきなり強いの出されちゃったぁ。少しは手加減してくれると思ったのに……しくしく」
「ぼ、僕だってやりこんでますから。これは基本中の基本だし……」
「まぁそうよね。仕方ないからリトルインプで生意気なディオール君に攻撃! いけいけー♪」

 ――突撃しますご主人様~~!

 またまた可愛らしい声で、リトルインプの攻撃がヒーローキャラであるディオールにヒットした。ライフが30から29へと表示が変わる。ちなみに『ライトロゼッティア』は全ヒーローライフが30、デッキ枚数も30である。
「ふぅん。序盤の一点ぐらいどおってことないよ。さ、僕のターン。2コストで再び勇敢なるローゼス騎兵を召喚! 盤面の騎兵はリトルインプを攻撃!」

 ――んぎゃーやられた。申し訳ありませんご主人様~。

 素っ頓狂な声で、リトルインプが闇のエフェクトを出しながら消滅した。盤面には二体のローゼス騎兵が残り、明らかにユータ有利の展開である。
「あーんやられちゃった。んー私は……。これにしよっと♪ はーいチャームサキュバスちゃん出ておいでっ♪」

 ――うふっ♪ 可愛い子発見っ♪

 もはや裸同然の女性キャラが召喚された。典型的なサキュバスで、申し訳程度とばかりにか細いブラとパンティがおっぱいとお尻にひっかかっている。
「ふわぁ……。何て恰好。って、それより2コスで攻撃1体力5? ちょっと体力高めだなぁ。能力もあったらやっかい……」
「ふふふ♪ これからがアルルーナちゃんのサキュバスデッキの本領発揮よ♪ チャームサキュバスはね、攻撃1と低いけれど、タフネス高めでさらに便利な能力があるのよ」
「な、何?」
「うふん♪ 聞いて驚くなかれ! ……って、まぁ大した能力じゃないけど。あのね、チャームサキュバスに攻撃されたキャラはね、1ターンの間何もできなくなるの。『うっとり』ていう状態異常よ。基本的にはシルビアンちゃんの凍結魔法と同じ効果ね」
「なるほど……。攻撃1でも足止めされちゃうってわけだね♪」
「そうよ♪ ほらほらユータ君。早速チャームサキュバスちゃんを攻撃してみて♪」
「うーん、気が進まないけど、それっ!ローゼス騎兵で攻撃っ!」
 ローゼス騎兵がアタック。お互いのダメージ表示と同時に、騎兵の周りにぷかぷかとハートのエフェクトが飛び交う。
「ああっ。これが……」
「うふっ♪ これで次のターンはそのキャラは何もできないわよ♪ サキュバスの魅力でメロメロドキドキ♪」
「くっ。効果は凍結と一緒でも何かやらしいなぁ……」
「うふっ♪ 後になるともっとやらしいんだけどなぁ……。うふふふふ……♪」
「な、何かとっても悪いことを考えている気がする……」
「うふふっ♪ どうかしら? うふふふっ♪」
「と、とりあえずもう一体のローゼス騎兵でサキュバスを処理だっ! まだまだこっち有利だし……」
「んふふふ……♪ 油断してると危ないわよ♪」
 数ターン程経過。ユータのディオールは展開力をいかして盤面を制圧。アルルーナも除去スペルを使うが追いつかない。
「盤面には僕のキャラが四体……。この辺で……よしっ頑固な老練武器職人ゲイザを召喚!」
 コスト5で攻撃2体力5のキャラ。スタッツは物足りないが、毎ターンの終了時に味方キャラの攻撃をプラス1できる。残しおくと大参事になる除去最優先のキャラである。
「はぁん♪ 何か面倒なの出されちゃったぁ……。除去スペルはさっき打っちゃったし……困ったわぁ……。う~んお姉さん困っちゃう~♪ う~んお姉さん困っちゃう~♪ う~んお姉さん困っちゃう~♪ う~んお姉さん困っちゃう……」
「か、感情表現連発しても変わりませんよ……」
「くすくす♪ ユータ君が変な気分になっちゃうかもと思って。困っちゃうぅうって♪ 言いながら、腰くねくね指を口元流し目流し目っ♪ 色々未経験の坊やなら、お姉さんの手管にまいっちゃうんじゃない?」
「は、はぁはぁ。僕はそんなのに……はぁはぁ」
「うふふ♪ きいてるきいてる♪ さてと、真面目に考えなくちゃ」
 実際ユータはメロメロだった。まるでそこに現実の物体があるようなVR空間である。性的魅力がふんだんにあふれたお姉さんキャラの妖艶な姿態と仕草に、さっきから試合の勝敗等忘れてしまいそうなほど堕とされかけていた。しかしそこは大会優勝者の意地だった。いくらフリーマッチとはいえ、ここまでデッキ構築とプレイングに練磨を重ねたディオールで負けるのは、ユータのプライドが絶対的に許さなかった。
「くっ。僕は負けないっ。どんなデッキにも……」
「あんっ。真剣な表情で怖いわねぇ……。ええと、私は考えに考え抜いた結果……。はぁい、誘惑のサキュバスレリーナちゃんよ♪ レリーナちゃん行っておいで~♪」

 ――レリーナの虜にしてあげるっ♪ チュッ♪ 一緒に戦おっ♪

「あっ、えっ? 何そのカード」
 ユータが驚いたのも無理はない。先ほどまで味方だった武器職人ゲイザが、一瞬で敵陣地に寝返ってしまったからだ。
「ふふ♪ レリーナちゃんの能力はぁ、攻撃2以下のキャラを味方にできちゃいまぁ~す♪ あ~んなんて便利なの♪ もちろんサキュバスだから攻撃するとうっとりさせちゃうわよ♪ うふふ♪」
「なっ。そうか。となると後半で攻撃2以下は出しにくい……。何かこっちの力を利用されてるみたいで嫌だなぁ……」
「やらしく立ち回るのがサキュバスデッキなのよ。ほらぁ……文句言ってないで早く対応して。可愛い優勝者君♪」
「うっ。馬鹿にして……。も、もちろん僕は負けないから……。逆鱗剣ドラゴニックブレード! 攻撃5のウェポンでゲイザを攻撃!」
 ディオールのウェポンがゲイザを切り裂く。
「あん♪ 同士討ちなんてやらしいわねぇ……。仲間でも容赦ないのね♪」
「お、お姉さんがそうさせたんですけど……」
「うふん♪ そんなの知らないわぁ……。さぁ次は私のターン。サキュバス召喚魔法陣を設置と。これで終わりっ♪」
 アルルーナ側の盤面にぽつんと魔法陣が設置される。攻撃0体力7の一目意味がないように見えるがその特殊効果が問題である。
「ええと何々? ターン開始時にランダムにサキュバスを一体召喚する――だって。それは放っておけないから……。ドラゴニックブレードと盤面のキャラで早速処理……」

 ――負けてくれたら、いいことして、あ、げ、る♪

「負けてくれたら、いいことして、あ、げ、る♪ 負けてくれたら、いいことして、あ、げ、る♪ うふっ♪ 負けてくれたら、いいことしちゃうんだけどなぁ……」
「ああっ。またぁ……」
 からかい、もといほとんど誘惑の感情表現がユータを襲う。胸元をさらけ出して前かがみで誘うその媚態に、ユータの目は釘づけになっていた。
「負けてぇ……。ユータくぅん……♪ このままじっとしててぇ……♪ そうしてればエッチなサキュバスお姉さん達が弄んでくれるからぁ……♪」
「そ、そんなのだめですぅ……。ふわぁぁ……」
「ねぇ駄目ぇ? 本当に駄目? こんなに必死でおねがいしてるのよ? 負けてくれたら、いいことして、あ、げ、る♪ 負けてくれたら、いいことして、あ、げ、る♪ ――負けてくれたら、いいことして、あ、げ、る♪ 負けてくれたら……」
「あわわわわっ。駄目駄目ですぅ……」
 必死で誘惑を振り払うユータ。もはや陥落寸前だったが、胸元から目をそらし何とか理性を保とうとする。
「ねぇお姉さんの一生のお願いよぉ♪ 後生だからぁ……。ねぇん……♪ それに新キャラの仕様テストもかねてぇ……。いいでしょいいでしょ♪」
「む、むわぁ……。そこまで言うのなら1ターンぐらい。こ、今回だけですからね」
「ありがとユータ君。懐が深い男の子って好き♪ チュッ♪」
 ウインクをしながら投げキッス。現実のしっかりした果林さんがしてるとは思えないほどはっちゃけている。
「さ~て何が出て来ちゃうかな~。できれば9コスか10コスのお姉さまが出てくると嬉しい♪」
「あ、あんまりそういうランダム要素増えるのは。僕、あんまり好きじゃなくて……」
「あんそんな心の狭いこと言わないの♪ ガチャだってそうよ♪ 何が出てくるかわからないサプライズがあるから人間は夢中になっちゃうのよ♪ それはもう我を忘れちゃうぐらいに……♪」
「は、はぁ……」

 ――いっえ~い♪ お転婆サキュバスのメリルがお助けするよ~♪

 魔法陣から元気よく出現したのは、名前の通り見た目も話し方もお転婆っぽいサキュバスだった。4コスで攻撃3体力4でぱっとしない。

「あらぁん。はずれが出て来ちゃったわ。もっと過激でセクシーで強ぉ~いサキュバスを期待してたのに」
「そ、そんなの出てきたらたまりません。とにかく僕のターンです。適当に盤面処理してと……。これとこれを出して、それにこれで決まりっ! ナイトマスター・セイントシルク!」

 ――この僕が来たからには戦いは終わりだよっ! 聖なる鉄槌が悪を打ち砕くのさっ!

 颯爽と登場したのは聖なる騎士セイントシルクである。6コスで攻撃6体力8おまけにスペル無効という、ディオールの中でもかなりのオーバーパワーのカードとなっている。
 容姿も絵に描いたようなさわやかなイケメンショタで、その純粋な能力の強さ以外にも色々と人気がある。
「あ~んもうこの子ったら詰めにきてるわぁ。どうせ次のターンは『偉大なる号令』とかで一気に20点とか出しちゃうんでしょ? 盤面とってそんなことするなんてひどいわぁ……。シルク君もいるし。はぁ本当に困ったわ困ったわ」
 いやいやうんうんと、果林さんは真面目に対処に困っているようだった。ディオールに一度盤面をとられてしまえば、いくら範囲攻撃を打っても意味がない。決して途切れない戦力投入にいつか音をあげるのみである。
「ふぅ。てこずったけどこれで終わりかな。サキュバスデッキ、ちょっと変則的だけどディオールの脅威にはならなそうかな……」
「あーもう勝った気になってるのね。もー失礼しちゃうわね。いい? 今からお姉さんが劇的な逆転を見せてあげるからね♪」
「ん……。そうは言ってもこれを返すのは大変だと思うけど。シルクと他のキャラを同時に処理する方法はあまりないから」
 そのはずだった。実際スペル無効で体力8のシルク返す手段はかなり限られる。ユータの勝利はすでに目前のはず――だった。
「うーんと、えーと。色々考えた結果、これしかないわね。はぐれサキュバスサリーンちゃん♪ それに追加でスペル『二人っきりになりたいな♪』を使用っと♪ シルク君とサリーンちゃんがラブラブよっ♪」
「な、え? わわわっ!」
 ユータが驚いのは無理もない。今まで優勢だった盤面がたった一手で五分程度に戻されたからである。
 残ったのはサリーンとセイントシルク。他のユータのキャラは綺麗さっぱり消えてしまっていた。
「さ、さっきの変な名前のスペルの効果は?」
「えーもうちゃんと見てなかったの? いいわ♪ 教えてあげる♪ お互いのキャラで最も攻撃力が高い一体を除いて全部破壊するの。文字通り、二人っきりになっちゃうの」
「へ、へぇ。何か納得しづらい除去だな……」
「またそんなこと言う。あのね、こう想像すると楽しいわよ。ねぇ~んシルクくぅん♪ お姉さん君と二人っきりになりたいなぁ~♪ 他の邪魔なゴミ虫はぁ、全部シルク君の手でやっつけちゃってぇ……♪ お願ぁ~~い♪ お姉さん君に一目ぼれだからぁ~~♪」
「ひ、ひえぇぇ……」
 ユータは思わずのけぞった。今まで一番媚び媚びで煽情的な声色ボイスを受けたから。卑猥に揺れる谷間。男を誘う煽情的な腰つき。口元からぺろりと垂れた舌先。アルルーナの全てがたまらなく蠱惑的だった。
「うふふ♪ シルク君の声が聞こえてきそうよ。はぁ~い僕お姉さんの言いなりですぅ♪ 仲間なんかいらない。聖なる僕があなたをきっと幸せにしますぅ~~♪ ってね♪ あ~んもうアルルーナとシルク君専用でイベント作っちゃおうかしらぁ……はぁん♪」
「ううっ。よ、余計なことはいいから……」
「はぁんごめんなさい♪ あ、今のはサリーンちゃんがいない場合の妄想ね。出した方が一応有利だからぁ……。でもぉ……盤面よりお姉さんシルク君と二人っきりの方がぁ……はぁん♪」
「な、何を言ってるんですか。もうくねくねしないで欲しいです……。そ、そうだ僕のターン。シルクでサリーンを攻撃……撃破! まだまだ僕の有利だと思うけど……」
「うふふ♪ そうかしらぁ。もう9コストまでのキャラを出せるのよ。どんな逆転が起こっても不思議じゃないわ。そして私のターン……あ、ひいちゃった。ふふん♪ 驚くなかれ! 妖艶なるサキュバクイーン、アルミュナミアラ女王様のご降臨よ♪」

 ――お~~~ほほほほほ♪ 全ての男は私の虜になる運命なのよ♪

 一番格の高いレアカードらしく、荘厳なファンファーレと共にアルミュナミアラが登場した。攻撃6体力6と9コストにしてはひかえめだが、その能力が問題だった。
「はい。シルク君をアルミュナミアラの能力でコントロール奪取♪ どんなキャラでも一体を味方にしちゃうのよ♪ サキュバスクイーンらしい魅力的な能力ね♪」
「な、なにぃ。9コストとはいえ卑怯過ぎるよぉ……」
「卑怯とか言わないのぉ♪ そんなこと言ったらディオール君の出し得爆アドカード群の方がよっぽど卑怯よぉ。サキュバスデッキはぁ……。か弱い女の子みたいに繊細なのぉ……。どんだけいじめられてけなされてもぉ、耐えて耐えて耐えまくって最後に大逆転♪ そんなコンセプトのデッキなんだからね。ただぽんぽんキャラ並べてドッカーン! じゃ勝てないのぉ……はぁん♪」
 アルルーナが一気に自分の言いたいことだけをまくし立てた。
 対してユータは完全に窮地に立たされたのだった。
「くっ。僕はまだまだ負けないっ。不屈なる意志で2ドロー……引いたっ! 舞踏双剣――ツバメ返し一閃!」
「ええっ? あららん。二体共除去? はーん本当に運だけはいいのねぇ……。あんでもっ。ふふっ♪ ふふふふ……♪ お姉さん勝っちゃった♪ ユータ君に勝っちゃったぁ♪」
 嬉しさを噛み殺すようにほくそ笑むアルルーナ。まだお互いの盤面は完全に空で手札の枚数は大差ない。それなのに勝ち確信したアルルーナに、ユータは不可解な思いを抱かずにはいられなかった。
「まっ、まだ勝負はついてません!」
「あん♪ どんなに叫んでもわめいても無理なのよ♪ はぁい♪ サキュバスデッキ最後のしあげ――サキュバスドリーム♪」
「ふわ、ふわぁぁ……」
 パッと一瞬辺りがピンクに染まり、フィールドは宮殿からふわふわとした異空間へと変容した。サキュバスドリーム使用時の特殊演出で、甘い夢の世界を表現した専用フィールドなのである。
 続いて空間から染み出るように、夢の住人にふさわしい精の狩人達が姿を現した。
「うわっ! サキュバスレリーナにお転婆サキュバス……。それにアルミュナミアラまで。他にもいっぱい……。こっ、これは……」
「そうよサキュバスドリームの効果がわかったみたいね。10コストで今までに倒されたサキュバスを全て召喚できるのよ。うふふ♪ これは絶対返せないでしょう?」
「うっ、い、いや……」
「考えても無駄よぉ……。甘美な夢の中に取り込まれた人間がぁ、サキュバスの魔力に対抗できるわけないでしょう? ほら見てぇ……。サキュバスのお姉さん達……。ピンクのもやに包まれて、妖しい光に照らされて、今までよりもずっとエロティックでしょう? ほらほらぁ……。じっくり見てぇ……。アルミュナミアラお姉さまなんてぇ……。爆乳ムチムチボインボインよぉ……♪」
「んっ、ああっ。い、言わないでぇ……。むっ、ふわぁぁ……」
 肉感的なムチムチの谷間がずらりと視界を埋める。サキュバス達のモーションは煽情的でいやらしく、ユータの理性を確実に削りとっていく。
 ウインク、流し目、舌なめずり、お尻フリフリ、投げキッス、谷間強調、M字開脚。七体がそれぞれ特有の誘惑モーションで、年端のいかない少年の視界を凌辱していた。
「ほらぁ~お姉さん達が今にも喋りかけてきそうでしょう? ほら早くぅ♪ こっちに来ていいことしましょ♪ お姉さんの体自由にしていいんだからね……♪ なぁ~んてね♪」
「あ、うぁぁ……。でも僕、ま、ま、負けないぞぉ……。最終奥義――ラストジャッジメントスラッシュ! 敵も味方も全部消えてなくなっちゃえ!」
 絶望的な状況と思われたが、ユータはまだ切り札を残していた。味方より敵の数が多い場合、明らかにアドを取れる有力スペルである。
「あ~ら綺麗さっぱり。せっかくユータ君好みのサキュバスお姉さん、たくさん召喚してあげたのに♪」
「も、もうさすがに打ち止めだろう。僕は負けるわけにはいかないんだ……絶対」
 ユータは勝ちを確信したように思えた。10コストも使った切り札のカード。それを超える脅威はもうないだろうという読みだ。後は残ったデッキのカードパワーで押し切れると考えていた。
「くすくす……♪ あはは♪ おかしいわねユータ君。何勝った気になってるのぉ?」
「な、だって。もうそっちのハンドも切れて……」
「あは♪ そんなことないわよ♪ ちゃんとサキュバスドリームの効果を確認した?」
「え? な、何か他にあったの?」
「うふふ♪ もう仕方ないわね♪ じゃあ教えてあげるぅ♪ サキュバスドリーム使用後、フィールドをサキュバスの甘い悪夢に変化させる。この効果は永続し、召喚したサキュバス一体倒されるごとに、サキュバスドリームを一枚デッキに追加する……ですって♪」
「つ、つまりどういうこと?」
「うふっ♪ つまりぃ……こういうことっ♪」
「う、うわぁ――」
 悪夢は再びユータを襲う。必死の思いで除去した盤面が、瞬く間にサキュバス達で埋まったからである。
「一体破壊ごとに、カード一枚デッキに追加だからぁ……。計七枚のサキュバスドリームが手に入った計算になるわぁ……。これでデッキ切れの心配はなし。それにサキュバスを倒せば倒すほどカードが増えちゃうのぉ……。あ~んなんて素敵なフィニッシュカードかしらぁ……はぁん♪」
「ふわぁぁ……。壊れカード過ぎるよぉ……。こんなの僕認めな……」
「あれぇ~? なぁに? 負けないんじゃなかったのぉ? ほらほら~ここから頑張ってみてぇ~♪」
「でも、ここからできることなんてぇ……ふぁぁぁっ」

 ――それそれっ♪ 攻撃攻撃っ♪
 ――女王様の鞭をくらいなさぁ~い♪ お~~ほほほほ♪
 ――お姉さんの手のひら気持いいでしょ~♪
 ――好き♪ 夢の中で愛してあげる♪
 ――ん~チュッ♪ 投げキッスでメロメロだよ~♪

 サキュバス達の一斉攻撃が始まった。うっとり効果により武器も振るえず、ライフもゴリゴリと削られていく。ユータの敗北はもはや必然だった。
「はぅあ。痛い! っていうより……んっ。あんっ。いい……。ああっ! 僕おかしくなっちゃうう――」
「ほらお姉さんに達にさわさわされるのいいでしょう? うっとりメロメロになりながらもぉ……どんどんライフはなくなっていくのよぉ……。サキュバスドリームの中でぇ、快感漬けになって狂いなさい♪ ほらほら♪」
「あっ、んっ♪ ああっ♪ あああんっ♪」
 ユータは女の子のような声でよがり狂った。ライフダメージ以上に精神的ダメージの方が深刻だった。
 いちいち色っぽいモーションで、攻撃されるたびにたぷんと揺れるおっぱい。脳内に響きぽわぁんと反響する萌えと媚びがたっぷりのボイス。周囲をぐるりと包囲されて、逃げ場もないままサキュバスによる甘い蹂躙を全身で受け止めていた。
「はっ、ああん……ふわぁぁぁ♪」
「うふふ♪ そろそろ止めね。ほら、お姉さんの魅力に屈服しちゃいなさい♪ ほら、は、や、く♪ お姉さんの魅力に屈服しちゃいなさい♪ ほら、は、や、く♪ お姉さんの魅力に屈服しちゃいなさい♪ ほら、は、や、くぅ……♪」
「あっあっ♪ ああんっ♪ そんなこと言われたら僕ぅ……」
 大勢は完全に決していた。盤面は掌握。ディオールのライフも1で、本人もメロメロで戦闘意志がない。
「ほらぁ……♪ 負けてぇ……♪ 自分からぁ……♪ 僕はもうアルルーナお姉さんに、一生勝てませぇ~~ん♪ 変なデッキなんかに、絶対負けないって大見栄きってすいませんでしたぁ~♪ ってね♪」
「はぁい♪ ごめんなさいっ♪ 僕の負けですぅ……♪ ごめんなさいごめんなさい……」
「うふふ♪ 可愛い♪ それじゃ早くその降参ボタンを押して♪」
「は、はぁい……♪」
 操られるように指を伸ばすユータ。最後まで逆転の目を狙う、大会優勝者の顔はなかった。甘い悪夢の虜となり、アルルーナの意のままに支配された哀れな少年がいるだけだった。
「そう、そのまま押すのよ……。はい私の勝ち♪ ふふふ♪」
「あっ、あへぇ。あはあは……♪」
「ふぅ疲れた。サキュバスデッキの仕様も上々ね。さ、付き合ってくれたユータ君にはご褒美あげなきゃ♪ ねぇユータくぅん……♪ 早く現実に戻っておいでぇ……♪ ねぇ~ん♪」
 VRヘッドセットがとりはずされる。あのいまわしい空間が、すーっと霧のように消滅していく。
「……はっ。えっ。あっ、僕は……。負けた……の?」
「あ~んユータ君好き~。サキュバスはもう終わり♪ アルルーナお姉さんがもっといいことしてあげるぅ♪ ん~チュッ♪ れぇ~ろっ♪」
「えっ? 何? んっ、んんっ!」
 ユータは面食らっていた。悪夢は終わったはずなのに。現実の世界でも、淫蕩なアルルーナに唇と舌をむさぼられているからだ。
「んっ。えっ、これぇ……。はっ、か、果林さんですか? な、何でそんな恰好?」
「あ~ん気づいちゃったぁ? そうよぉ♪ アルルーナお姉さんのコスプレよぉ♪ これがご褒美♪ もうさっきの試合でオチンチンガチガチなんでしょう? お姉さんが食べてあげるぅ……♪ ほ~らほらほら♪」
「あああんっ♪ オ、オチンチンがぁ……」
 一瞬で衣服をはぎとられ、一気に若茎を咥え込まれていた。濡れそぼった秘所がぐちゅりと卑猥な音をたてて、魅惑の花園へと誘いこんでいく。
「はぁ~ん♪ アルルーナお姉さん好きぃ……♪ んっんっ♪」
「おっぱいも吸っていいのよぉ……♪ 試合中ずっと気になってたもんねぇ……♪」
「う、うん。僕、最初に挨拶されてからおっぱいがとてもとても……んんんっ♪」
 母親の乳房にすがりつくように甘える。ひっしりと頭を抱えられ、抜け出せない母性の網にからめとろうとしてくる。
「はぁ~ん♪ おっぱい、おっぱいがいいよう……」
「そんなにおっぱい好きぃ? ねぇもうおっぱいに勝てない?」
「う、うん! 僕もうおっぱいに勝てません! アルルーナお姉さんに一生勝てません――」
「あーんいい子ね♪ それじゃお姉さんのオマンコに出していいわよ♪ ほらぁ……ぎゅっ♪」
「あんっ♪ しまるぅ……ああああっ♪」
 密着と吸着。そして搾精。サキュバス以上の魔性の力で、獲物となった少年の精液は心と共に搾り取られた。
「あ~ん止まらないぃ♪ ふあぁぁ……」
「うふふ♪ ぜぇ~んぶ出していいからね♪ うっふふふ……♪」



 ――その後。ユータのカードゲーム人生は大いに狂ってしまった。
 特定のデッキに極端な苦手意識を持つようになり、安定した勝率を維持できなくなってしまったからだ。
 今日も待ちに待った大会日。しかしユータのプレイングはさえなかった。
「あっ、ユータ君今日は♪ ねぇ大会の調子はどう? 君のことだから、余裕で勝ち進んでいるんでしょうね?」
「え、あ、その。三回戦で、負けです」
「あらぁ? どんなデッキに負けたの?」
 果林はにやりと意地の悪い笑みを浮かべる。相手のデッキはわかっていた。わかっていて質問したのである。
「サ、サキュバスデッキに負けました」
「ええっ? ユータ君が? アルルーナお姉さんにコントロールされちゃったの?」
「ああっ、コントロールなんてぇ……」
「うふふ♪ ユータ君だって調子悪い時もあるわよ。ねっ……これからホテルで休憩しよっか♪」
「あっ、はぁ……。わ、わかりました」
 少年はこくりとうなずいた。魔女アルルーナに、ねっとりと精神を支配された操り人形そのものだった。



「あああっ! 僕ぅ……負けちゃったぁ……。アルルーナお姉さんにぃ……」
「んっんっ♪ そうまた負けたのねぇ……。でもいいわよぉ……♪ その感情をお姉さんにもっとぶつけて♪」
「あんっ。ああああ――」
 ユータは豊満なお尻を両手に抱え、一心不乱に腰を振っていた。もちろん相手はアルルーナに紛した果林である。大会でそぐわない結果の後、こうしてコスプレセックスするのがもはや常となっていた。
「はぁはぁ。僕頑張ってるのにぃ……。もう全然勝てないよぉ……」
「あ~んどうしてぇ? ユータ君の強さはお姉さんが知ってるのに」
「だってだって。あの白い谷間を見たら、サキュバス一匹でも召喚されたら、僕おかしくなってぇ……」
「うふふ♪ そうなのぉ♪ トラウマ植えつけられちゃったのぉ? でもぉ、よく考えてみてぇ? 現実の相手はアルルーナとは似ても似つかない、はなたれ小僧と小便くさい女の子よぉ……。VR空間の映像なんて、全然関係ないじゃない♪」
「わかっててもぉ……。僕思い出しちゃうのぉ……。脳ミソの奥にべったりぃ……。それでサキュバスドリームまでいつも食らっちゃうのぉぉ」
 かくかくと腰を振りながら、甘えるように声を絞り出す。ユータの苦手意識は深刻だった。頭から振り払おうとしても、どうしてもあの光景がフラッシュバックしてしまうのだ。
「あ~ん僕聞こえてきちゃうのぉ……。感情表現切っててもぉ……。負けてぇ……、屈服してぇ……って。僕おかしくおかしくぅ……」
「別に悩まなくてもいいわよぉ……♪ そのままおかしくなっちゃうなさい♪ ユータ君はぁ、アルルーナお姉様のペットにされちゃったんだからぁ……。現実のアルルーナ様にぃ。ほらぁ……だからもっと腰振りなさい♪」
「あっはぁい♪ 僕おかしくなるぅ……♪ アルルーナ様の一生の虜ぉ……♪ あはあはあはぁ♪」
「ああ~ん♪ 前途ある少年がぁ、私の誘惑で狂っちゃうぅ♪ あんでもいいわよねぇ♪ 少年チンポつまみ食いするの大好きだからぁ……♪ ほらもっと腰振るのぉ♪」
「はぁんお姉さんお姉さんんっ♪」
 ユータは射精し続けた。アルルーナの作り出す、サキュバスドリームは永久に終わらないのである。




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  1. 2016/06/29(水) 21:09:39|
  2. SS
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  4.  | コメント:1

僕は……

この前の記事からの流れで
SSが久しぶりに書けたのでのっけときます。

このジャンル売国マゾ系? というのが一般的なのだろうか。
文字コラでもほとんど見たことはないです。
でもたぶん潜在的な需要はあるんじゃないかなぁと思います。
ただネタがアレなだけに、大っぴらには公開しにくい類かもしれません。


ちょっと思い出したのがその昔、とあるMMOで反日イベント的なものがあったような気がします。
実際○国開発のMMOは結構あるような気がします。
日本である場所が狭くて邪悪な場所だったりなぜか半島がでかくて一番発展してたりと。
さりげない(?)悪意でアピールしてくれます。
これをふまえて妄想。

A国人のロリなエロカワなゲーム配信者。
基本的にはA国製ゲームしかプレイしない。
貢がせたりB国を強烈disったりして自分勝手に振舞う。


・スプラトゥーンのようなFPSゲームで
A国キャラ優遇。衣装も可愛く武器も強い。
B国キャラは不細工で弱い。いいことなし。
クエストモードでどうみてもB国の領地を攻める。最終目標は国旗。
定期的にB国侵略イベント開催。
A国とB国チームにわけて対戦。当然敗北のB国チームをインクがなくなるまで馬鹿にしながら搾精。

・格闘ゲームで
世の中は技術革新時代。戦闘武器も劇的な進化を遂げている。
そんな折、世界一を決定する大会が開催される。
各国の猛者たちが、選りすぐりの武器を使用する中、
なんとB国の武器は――竹槍。
『テンガイサコク』なんていう馬鹿げた制度で時代遅れになったB国。
『ノーミン』出身のモンジローが、B国の誇りをいやいや背負って竹やり一本世界と戦う。

キャラはリーチもなく動きも遅く火力もない。
全キャラに対して8:2以上つけられる。
A国キャラはモンジローと戦う時専用の挑発モーション、勝ちポーズが存在する。
B国リスナーに強制的にモンジローで戦わせて、
挑発、エロ技、舐めプレイしまくりで鬱憤をはらしまくる。


色々妄想すると何か楽しかったりします。


僕は売国マゾになりたい


 A国系高級風俗――官能M性感クラブ『アンシエン』。
 その立て看板を見た刹那、僕の心は得体の知れない怪しげな衝動に塗りつぶされた。
 A国人は誰でも周知の通り、世界の嫌われものである。ネットの匿名掲示板では、毎日のようにえげつない誹謗中傷が尽きることなく書き込まれている。
 まぁその根本となる原因も、A国と我がB国との血塗られた――または滑稽で馬鹿げた争いの歴史を省みれば、行き過ぎたレイシスト集団の行動もある程度は理解できないこともない。
 ただ、そんな至極面倒ないざこざも、僕が今から始める酔狂じみた性癖披露とは全く関係がない。政治とか興味がない。どっちが正しいとかも無関心。そもそもデマか捏造か真実かもどうでもいい。いくら長い付き合いの歴史があっても、所詮は海で隔てられた遠い遠い国のこと。
 そう僕には何の関係もない。A国が何をしようが、今すぐ戦争になって僕の真上に爆弾が落ちるわけもない。いや、実際に全く関係がないわけではなく、危害を被る確率が1%か2%上がっても、やっぱり僕はのほほんとしてるだろう。
 ぎりぎりまで、本当にぎりぎりまで重過ぎる腰を動かさないのが僕だけどそんなのはどうでもいい。
 本当に、大事なのは――。
「いらっしゃいませ。一名様ですね♪ ではこちらへどうぞ……」
「あっ、は、はい」
 僕はおずおずと、後ろ姿が狂おしいほど惹かれる抜群のプロポーションの女性――A国美女様の後を、しょぼくれたネズミのような様子で付いていった。
 最も重要な要素。それは世間でもネットでも世界中のどこでもゴキブリのように嫌われている、B国人なら嫌悪感か警戒意識を少なからず要求される、A国人女が僕の理想の女神様的女性像であることだった。
 しかしそれは偽りの美である。整形を繰り返し、顔面コンプレックスを取り払い、虚構に更なる虚構と醜く肥大化した自信をこねくり回して固めた不安定な建造物である。
 それでも僕は、彼女らの顔も肉体も大好きだった。
 湾曲的な頬、ほっそりとして繊細な顎、愛くるしい二重の瞳、ぷるぷるとして光沢のある唇、見るのもを魅了するふくよかな谷間――。
 全部が全部ではない。個人によっても千差万別。どこをどういじったのかも人知れずだが――。
 とどのつまり、最終的なA国美女様とは、二次元アニメのような髪型を変えればまるで区別がつかないハンコ顔になってしまうと言っても過言ではない。
 ただ僕は、そんな最終的誘惑サイボーグが大好きなのだった。
 なんと形容すればいいのだろうか。強いて言うならば、RPGでエンカウントする複数の美貌の女モンスターに問題なくメロメロになれる。そう説明できるかもしれない。
 とにかく僕のときめきは最高潮だった。
 敵対勢力の美女。きゅっと引き締まった美脚。囚われる僕。背徳的な妄想。
 まるでオナニーを覚えたての少年ように、期待に胸をふくらませながら奥へと進んだ。


 赤と黒を基調とした艶やかなロングドレス。腰からつま先にかけて、さっくりとスリットが入り、A国美女様の腰つきと美脚に魅了されることを否が応にも強制される。
 こつこつと響くハイヒールの音色に誘われ、ミノス迷宮の牢獄に幽閉される罪人のような気持ちになりながら、僕は一つの懺悔部屋へと通された。
「ようこそ。そこにお座りなさいな。ベ、イ、タ」
「えっ? あのっ。まっ、まだ何も」
 A国美女様の細い視線と、蠱惑的なやや淡い紫色なボイスが僕を射抜いた。が、どうにか取り成してそう答えた。ちなみに『ベイタ』とはB国民に対する蔑称である。もちろんその単語で、僕の下半身と脳ミソがどろりとろけたのは言うまでもない。
「言わなくてもわかるわよ。ベイタの考えることなんてさぁ。ほら、ルファ様がしつけてあげるわ。この……売国マゾのベイタちゃん♪」
「んっ。あんっ! ひっ、ああっ」
 僕は身悶えた。何もかもお見通し。A国美女様は――女神ルファ様は、あさましくて汚らわしいベイタの思考など手に取るように理解していたのだ。
「よく来るのよ? あなたみたいな坊や。やせっぽちで貧相で、目が怯えてて……。顔に僕はマゾですって大きくマジックで書いてあるわ。A国人の美女様に支配されたい。誘惑されてメロメロになりたいってね……」
「そっ、そうですか……」
 手に持った扇子をパタパタと扇ぎながら、にやにやと悪魔的な笑みを浮かべるルファ様。その魅惑的な仕草だけで軽くイキそうになってしまう。
 それにしても意外だった。僕みたいな売国奴に洗脳されながら、気持ちよくなってしまう変態中の変態がいるとは。
「テレビによく出てる政治家のおじ様も、あの番組プロデューサーさんも、あのコメンテーターも、歌手も俳優さんも……うふふふっ♪ あらっ、これはあんまり言っちゃ駄目なのよね……ふふっ♪ 今のは聞かなかったことにしてね、可愛いベイタの坊や♪」
「ひっ、あっ、いいいえ」
 僕は床にひざまづきながらそう言った。
 ハニートラップ。色仕掛けで対象を籠絡すること。もしかしてこの風俗店もそれを生業としているのだろうか。だとすれば話が早いのも納得がいく。
「まずは……そうね。よく見なさいベイタ。これは――何だと思う?」
「あっ、それは……」
 ルファ様が一枚の布切れをひらひらと僕の前にかざした。夢にまで見た理想のシチュエーションに、頭を朦朧とさせながらもそれが何であるか視認した。
「僕の国の……国旗です」
 消え入りそうな声で言った。何かをされたわけでもないのに震えていた。快感とも恐怖ともいえない奇妙な感情で、胸がいっぱいになり破裂しそうだった。
「そうね。大正解。それで――これからこれをどうすると思う?」
「んっ、ああっ」
 燃えるほど赤いルージュの唇を、ぺろりと舐め上げながらルファ様が言う。
 僕は口ごもった。さっきベイタと言われた時から、頭が呆けて何も考えられないのだ。
「……どうして無視するの? ベイタのくせにっ! A国人様である私に、無礼を働いていいと思ってるのぉ? ねぇベイタちゃぁ~~んっ♪」
「あああぁっ! ひぃぃぃ……」
 乳首をぎりりとつねられた。ねじ切られるかと思うほど痛い。
「ほらベイタ。簡単なことよ。この国旗――」
 それはしゅるりとルファ様の手元から地に落ちた。きゅっと引き締まったくるぶしからハイヒールへ。ルファ様の足元へとするりとすべりこんだ。
「見てベイタ……。ほらほら」
「あっ、あああっ」
 瞬間、B国の国旗は無残にも踏み潰されていた。ぐりぐりと、A国美女様のハイヒールの崇高な踵で、汚い床に接吻しながらぼろ雑巾にされていた。
「ねぇベイタ? あなたの国が踏まれているわよ?」
「あひっ、ああっ」
「B国はあなた自身でしょう? 怒りとかわいてこないの?」
「いっ、いやぁぁぁ……」
「何も抵抗しないってことは――マゾよ。それも超ド変態の、ば、い、こ、く、マ、ゾ♪ くすっ♪」
「んぎっ。あああ――」
 頭がどうにかなりそうだった。芳しいA国美女様の高貴な芳香と、とろけるような甘い色香に迷いながら、僕が属する団体の象徴を足蹴にされたのだから。
 ぐにぐにと背中にも柔らかな双丘が押し付けられている。と同時に乳首もえぐられ、耳たぶも唾液がのった舌先でくちゅりとしゃぶられた。
「ほらぁ~ん♪ どうかしらベイタくぅ~ん♪ いつもあなた達が崇拝している、A国美女様のヒールで押しつぶされる感覚はぁ~ん♪」
「あっ、ああ~ん。それっ、ぼ、僕ぅ……」
 先ほどより1オクターブ上の、更に甘ったるい媚と嘲笑を交えた声色が僕の聴覚を満たした。
 ルファ様が踏んでいる。それはただの布切れだ。たまたまシンボルが描かれた単なる布切れだ。
 でもそれなのに僕の股間と心は――。
「ねぇこれ感じるんでしょ? 私に屈服したベイタはね、これしてあげるとね、泣いて喜んじゃうのよぉ♪ ほぉら、ほら! 汚らわしいベイタの国旗! よくも私の前に見せてくれたものね……それそれっ♪」
「んっ、んっ、ひぃぃぃ……」
 僕は涙を流しながらうめき、そして狂気のごとく倒錯した。もうヒールでぐちゃぐちゃにされた国旗を見つめながら、有り得ないほど隆起する自らの股間の疼きに身もだえした。
「あらベイタ。やらしいのねぇ……。こんなことされて……ここ、固ぁくしてるなんて」
「うっ……」
 ハート型の誘惑光線が何本も突き刺さる。ルファ様に見つかった。いや見つけて欲しかった。
「いい子いい子。さすが私のベイタね。ほら、ご褒美にもっといけない世界に連れてってあげるぅ……♪ チュッ♪」
「んっむぐぅ……」
 甘い唇の密着。頬に瞼におでこに。舌も吸われてしまう。僕が僕でなくなっていく。世界がA国美女様に奪われる。そして僕もそれを望んでいる。堕落してしまう。完全なる売国マゾになりながら狂ってしまう。
「んっ……ルファ様ぁ……♪ もっとキスぅ……♪」
「うふふっ♪ まだ堕ちるのは早いわよぉ……。ほら目を見開きなさい……ぐ~りぐりぐりぐり……」
「あっあっ、それぇ……」
「ぐりぐりぐりっ♪ ほらこれぇ……あなた自身よぉ。ボロボロにされてるのはぁ、醜くて嫌われもののベイタよぉ……。だからこうやっていじめられるのよぉ……」
「あっ、あふぅ……ああん……」
 僕が、踏まれている。あれは僕だ。一枚の布切れが。きっと僕だ。僕はここにいるけれど、醜くてみんなから嫌われて、A国美女様のヒールで脳ミソ貫通するほどねじこまれたいのは紛れもない僕だった。
「ここがいいんでしょう? ベイタちゃん。おしおきの時間よぉ……♪ 今までの罪をちゃんと清算しなきゃね……♪ ほらぁ……これがあなた。ベイタはいつもぼろぼろぉ……。汚い身なりでドブネズミみたいな悪臭まきちらして世界中に迷惑かけているのよぉ……」
「あっはぁい。これ僕ぅ……♪ 汚いのが僕ぅ……♪ 甘んじておしおき受けるのぉ……」
 筋肉と神経と思考回路がめちゃくちゃになる。布切れベイタが僕であり、A国美女様の下僕となるのも僕だった。
「踏んで踏んで……ほぉ~らほら」
「あっ、ああっ」
「ちょっと足を持ち上げて、上から体重かけてつよぉ~~くっ♪」
「あっあっ! ああああ――」
「痛い? ねぇ痛い? 私達がこれまで受けた痛みはこんなものじゃないのよ? ほらほらほらぁ!」
「あんっ! 痛い痛いっ! いっいっいい――」
 幻痛だろうか? 僕は弓なりにのけぞった。今にも引きちぎられそうな布片に、異様なほどのめりこみ感情移入していた。
「ほぉら壊れてぇ……? ベイタだからいいでしょう?」
「ううっ。ぐぐぐっ……」
「何も言わないのならいいのねぇ? ほらここの裂け目から引きちぎってあげるぅ……」
「いーっ。やめ、だめ、あっ、いっ、あっあっあっあっ――」
「もう遅いわよ。ほーら頭から真っ二つよぉ……」
「あひっぃぃいいっ――!」
 ビリッ、ビリビリビリビリッ。
 脳天から落雷を受けたような轟音が響いた。器用に両脚のヒールを使い、僕自身を引き裂いた情景で、射精とも似つかぬ快感に包まれながら暗転した。
 僕は、僕は壊れてしまったのだった。


「お客様? お客様ぁ? もう全然起きないわぁ。ちょっとやりすぎたのかしらぁ……」
 広がる視界。ここはどこだろう? 記憶が定まらない。確か僕は、繁華街の狭い路地裏で、ふらふらと立て看板に誘い込まれて……。
「あ、起きましたね。よかったです♪ もう心配したんですよぉ……」
 にっこりと笑う聖母のような笑み――同時に邂逅するぷっつりと裁断された赤と黒の記憶。
「あっ、ひぃっ。許してっ! 何でもっ、何でもしますからっ! 謝罪でも賠償でも、僕っ!」
「あらあら。本当に壊れてしまったんですか? ほらしゃんとしてくださいなっ」
「うっ、ぷっ、あっ」
 ぺちぺちとニ、三度頬を叩かれた。精神が戻る。うん、僕は壊れていない。ここは風俗店。A国美女様と変態売国マゾプレイしてみたくて、今さっき実際体験し堪能し終わったところだったのだ。
 それにしても、今まで味わったことの最高の体験だった。心をぐちゃぐちゃにえぐられ、生命機能に危い影がさすほどの、極めて倒錯的で悪魔的な快楽地獄である。 
 あらゆる手段を使って、精神をゆさぶり破壊される。僕は被破壊フェチなのかもしれない。クラッシュなんていう一般人にはなじみのない性癖も存在するし。
「えーしめて三万円になりまーす♪」
「あっはい」
 プレイ中とは真逆の、仮面でもはずしたかのように愛想のいいルファ様が応対した。
 途中で気絶してしかも射精したかも曖昧だったが、いつも憧れていたA国美女様の手ほどきを受けられたとあっては、三万円払っても安すぎるくらいである。
 むしろもっと――。
 そう僕は貢いでしまいたい。A国美女様にルファ様に。全財産。B国民であることを馬鹿にされ侮辱され汚物のように扱われて――。
 洗脳もされたいボロボロにされたい売国マゾに目覚めたいルファ様達のために掲示板にあることないこと書き込みたい……。
「また、来てくださいね。今度はもっと素敵なお遊びしましょうね……」
「ふぁ、はぁい……」
 僕の心を見透かしたような、ルファ様の女神的スマイルがねっとりと体内にからんでいく。
 もう僕は悟ってしまったのだ。この風俗店から逃げられないと。
 A国美女様のために全てを捧げると確信してしまった。



後日――。
当然のごとく、僕はルファ様と時を共にしていた。
「ほらベイタ。この地図を見て?」
「は、はい……」
 床には世界地図が広げられていた。マジックで目立つように、ぐるりと一つの島に丸がつけられている。
「ベイタは知ってる? この島の名前?」
「ははいルファ様。これは――U島です」
 もちろん知っている。島国のB国とA国を隔てるM海に、ぽつんと存在する別段特徴のない島である。
 しかし、何もないと言ってもこの島こそが火種の元なのである。
 お互いに延々と譲ることのない領有権の主張。やれどっちが先だとか違うとかやいのやいので、周囲から見れば滑稽ないたちごっこの化かし合いだろう。
 政治に疎い僕なんかは、あんな小さい島ぐらいあげてやってもそれほど困らないだろう――とか思っちゃうのはあさはかで情弱で愛国心の欠片もないのだろうか。
「うふふ。そうよねU島よね……。ねぇ、この島……A国とB国、どっちが所有した方がいいと思う?」
「えっ、あっ、それは……」
 糸のような妖しい目つきで見つめられる。心の天秤が左右にふらふらと揺れる。
 僕には正直わからなかった。どっちでもいい。どっちでも――。そんな無責任な答えはルファ様は不服だろうか? でもベイタである僕にはきっと決定権がない。だからルファ様が決めて欲しい。A国美女様であるルファの言うことなら、きっといつでも正しいはずだから――。
「ベイタ。よく考えて。この島はとてつもなく価値がある代物よ。ここをどちらの領土とするかで、海域勢力が一変しちゃうのよ?」
「あああ……。そ、そうですね……」
「正直に自分の考えをお話しなさい……」
「ははははいぃぃ……」
 豪奢な椅子に座った、赤黒ロングドレスから覗く、むしゃぶりつきたいほど肉感的で悩ましい美脚がふわりと優雅な動作で組み替えられた。
 チラリと見え隠れした紫のパンティー。赤いハイヒールの足裏。こんな刺激的な光景をさらされて、冷静な思考ができるはずもなかった。
「あぅぅ……、あわわわ……」
 僕は当然のごとく口ごもった。そこにルファ様が助け舟を出した。
「ふふっ。ベイタはこう思ってるはずよ。U島はB国の領土。お前らA国はさっさとあきらめろー! なんてね」
「ええっ、そんなの思って……」
「正直にって言ったでしょう? あなたはB国人でしょう? 自国の利益なら追求しなきゃ駄目でしょう?」
「あ、ふぁ……」
「言いなさい。U島はB国の領土ですって……。いけすかないA国なんかにわたさないって……」
「そ、そんなのぉ……」
「言いなさい。このベイタ!」
「はっ、はいいいっ!」
 教師が生徒を叱るような、強い語調で命令された。何か誘導されている気がしたが、ここはルファ様に従っている方が賢明だろう。
「あ、あの。U島はB国の領土……です」
「どうして?」
 いきなりの質問。と、頭の片隅にあった浅瀬の知識を披露する。
「せ、1900年頃に、B国が領土と決めたから……それで」
「え? そうなの?」
「そ、そうです……」
「私はぁ……A国の方が先だと思ったんだけどぉ……。記憶違いかしらぁ……」
「あっ、あああっ……」
 ヒールを脱いだ、A国美女様のつま先が僕の股間を優しく撫ぜた。
 気持ちよすぎる。ぴたっと吸い付くように、ルファ様の体温感じられて愛おしい。
「ねぇん……欲しいなぁ……U島」
「あっ、あんっ。ああぁ……」
 女の子のような声を出す僕。足でいじられただけで、頭が真っ白になり何も考えられない。ルファ様の美脚で屈服してしまう。ルファ様の言うことは全て正しい。ルファ様、ルファ様……。
「本当に欲しいなぁ……U島。ねぇん……ベイタの一存で決められないかしらぁ……。U島はA国領土でいいですって……ねぇねぇねぇねぇ♪」
「あひっ! あふぅん♪ あああっ♪」
 ぐりぐりと足裏が乱暴に押し込まれる。A国美女様の麗しい体重かけた魅了攻撃に、為すすべなく白い売国ザーメンをまき散らす限界まで高められる。
「何イキそうになってるの? 駄目よまだ……。ちゃんと、お話合いが終わってから……ふふっ♪」
「んっ、ふぁぁぁ……」
 遠くへ離れる美貌のつま先。まるで阿呆の表情で、おあずけされた格好の無様なベイタは僕だった。
「ねっ。欲しいの。U島。何度も言ってるけどぉ……お願い♪」
「あっ、うううっ」
 今度は趣向を変えたのか、ルファ様が四つんばいでにじり寄ってきた。じっと注視するのもはばかられるような美顔が、今僕の鼻の先に迫っている。
 ああそんな魅力的な瞳で見つめられたら僕は……。命さえも捧げてしまう。A国美女様に人生を狂わされて一生終えたい。つまらないB国で野垂れ死にするのなら、何もかも搾取されてぼろ雑巾という名の絨毯で踏まれ続けたい。
「でっ、でも。僕にそんな決定権は……」
 おぼつかない頭で絞り出すように言った。当たり前だが、僕に政治的権力はない。本当にあるはずもない。
「ううん。あなたが決めてぇ……。私の愛するベイタ。自信を持って。ほらぁ……」
「あっあふぅ……」
「U島を私達にくれたら、A国美女様の太ももマンコ、使わせてあげてもいいわよ……♪」
「えっ……」
 耳元に悪魔の囁きが吹き込まれる。太ももマンコ。何て扇情的な響きだろう。そんないやらしい言葉が、ルファ様の口から発せられたこと自体に激しく興奮してしまう。充血。狂おしい勃起。たちまち限界が近づいている。
 ドロドロぐちゅぐちゅのソースになった感情液が、行き場を失い今にもあっぷあっぷと出口を求めている。
 U島とオマンコ。僕にとってはたいしたことのない孤島と、愛して崇拝してやまない美脚太ももマンコ。
「どうするぅ?」
「あっ……」
 まさに精を搾り取る淫魔の表情だった。それも人間の心を巧みに誘導して、読心術に近い思考操作を行うサイコパス的なサキュバスのそれだった。
 僕の答えも既に決まっていた。あのむちむちの太ももとちっぽけな島じゃてんで釣り合わない。
 ただ僕が気持ちよければいい。自分さえいい気分ならいい。たぶんそれはいつでも正しいのだ。A国美女様の命令なら2000%以上確実で絶対的なのは間違いない。
「んっ♪ ここに腰を突き入れなさい。入れた瞬間、U島はA国のものになるのよ? さぁいらっしゃい……」
「う……」
 長い裾をまくり上げ、むっちりとした膝小僧を閉じる。なんて魅惑的過ぎる景色だろう。あの隙間に僕自身を入れてしまったら――艶かしい太ももの狭間でくちゅくちゅと擦り上げられてしまったのなら――。
 想像しただけで我慢汁がつうと漏れ出してしまう。全身でルファ様を欲している。本能に従うべき。全細胞全てがそう言っていた。
 でも心のどこかでは迷っていた。本当はA国なんて大嫌いで。世界中から嫌われているのは事実で……。
「迷わないで……ベ、イ、タ♪ あなたの一番欲しいものが、今手に入るのよ……」
「あああ――。はい、はぁい……♪ ルファ様ぁ……今行きますぅ……」
 かすかな良心と愛国心は、女神様の神託で雲散霧消してしまった。もうルファ様の美脚しか見えない。A国美女様の太ももマンコにベイタの粗末なアレを挟んでもらう堕ちた売国マゾ奴隷しかここには存在しない。
 僕は売国マゾ。売国マゾのベイタ。世界で一番いやらしく汚れて知能最低で見た目も短足で頭でっかちでのっぺり顔でそれでいて嫉妬深くいつも勘違いしてわめきちらして周りに迷惑ばかりかけているベイタのマゾ男なのだ。
 これが本当の自分。きっとそうなんだ。今やっと解放できて理解したんだ。
「あんっ♪ ああ~ん♪」
「ひゃっ、あったかいよぉルファ様ぁ……」
「や~んベイタのくせにアソコはちょっと大きいのねぇ……。平均より上の子はちょっと好きよぉ……あ~んあん♪」
「えっ、あの。ルファ様だから、A国美女様の太ももだからぁ……」
 僕は最上級の性的籠絡機関にみっちりと包まれた。痛いほどペニスが歓喜し涙を流している。
「ほらほらぁ♪ もっと上まで突き上げなさい……。太ももとお尻の間でぇ……最高に気持ちいい空間で売国ザーメン吐き出しなさい……」
「あんっ。売国ザーメンなんて言葉言われたら、僕、僕ぅ……」
 太ももに挟みこまれたまま、ルファ様が腰の位置を下へとずらす。甘く濡れそぼった秘部と尻肉のむちっとした感触が、太ももの包容力と渾然一体となり更なる桃源郷へと僕を誘っていく。
「あっ、ふぅん……♪ 僕っ……僕ぅ……」
「あ~んベイタくぅん♪ もっとお姉さんに体を押し付けていいのよぉ……。そうするとぉ……」
「んっ♪ ふぁ、ああっ、ルファお姉様ぁ……」
 声に体を支配される。赤子のように背中に手を回し、ふくよかな乳房に甘えながら顔をすりすりとうずめていく。
「太もも……オマンコ……お尻♪ 全部味わってぇ……。おっぱいも……チュッ♪ 唇もぉ……。A国美女様の全てを堪能できるのよぉ……。んっああんっ……んっ……好きぃ……ベイタのこと……本当に好きぃ……」
「ふぁ、ありがとうございまぁす……。僕も光栄ですぅ……。何もかもルファ様に捧げますぅ……。あん気持ちいいっ♪ 溶ける溶けるのぉ……お尻で太ももでオマンコで……あああ――」
「いいのよ溶けて溶けてっ! 一緒にイキましょベイタ……」
 ぱぁんと何かがはじけた。壊れて壊れてまた塗りつぶされた。
 記憶がなくなり自律意思を持たない人形なる。
 深すぎる底なし沼へと堕ちていく。
その沼の主は――もちろん女神ルファ様である。
「あっ、あへっ、あはぁ、あっあっ。いいのっ……すごくぅ……♪ あうぅああいいひえぇぇ――」
「あんっ♪ ベイタのくせにぃ……。でもいいわぁ……。ベイタ、ベイタ、私の可愛いベイタ……」
 僕はほとんど奇声に近い嬌声をあげながら、女神様の肉体をむさぼった。
 堕ちゆく中で、女神様から与えられた『ベイタ』の三文字だけはしっかりと脳内に刻み込んだ。





 また数日がたった。
 僕はあれからアンシエンに通い詰めていた。寝食を忘れるほど――現実の仕事も趣味も友人も家族も何かも捨て去るほど――。
 生活全てがA国美女様を中心に回るようになった。片時もA国美女様の声や匂いや体温やおみ足や美脚や乳房や美顔やシルエットを忘れたことはない。
 A国美女様が好き。完全に洗脳されてしまった。でも僕は、生まれてから一番幸せだった。永遠に僕を包んでくれる、A国美女様という大きな母体に属しているのだから。
「ほらベイタのお兄ちゃん。今日も歴史のお勉強だよ? えーと、この18××年に起きた、Y海沖漁船衝突事件はどっちが悪いのぉ?」
「あっはい。悪いのはB国でございます。僕の先祖が、ベイタだから気の迷いでこんなことをしてしまって……。本当にすいませんすいませんすいません……」
「ふふっ♪ よく謝罪できました。でも、誠意って大事だよね? わかる? せーいせーい♪ 賠償金、ちゃんと払ってぇ……まだ私達ぃ、その傷がいえてないのぉ……」
 ロリ顔のA国美女様に問いかけられる。
 僕は貢ぎマゾにも調教されていた。今日は二百万も現金を持参してしまった。十万や二十万では足らないのだ。A国美女様がこれまでに受けた侮辱は、未来永劫消えることのないぐらい膨大なのだ。
 だから僕が少しでも誠意を示さなくてはならない。少しでもA国美女様の怒りを沈めなくてはならない。
 貯金はとうになくなっても、まだまだ全然足りなかった。もっと貢ぎたい貢がなければならない。僕の一生をかけて謝罪と賠償を徹底しなければならない。例えどんな手段を使ってでも――。
「お兄ちゃん聞いてる? この事件――いくら賠償金払ってくれるのぉ?」
「さ、三十万でどうでしょうか……」
「え? それだけぇ? うーんベイタの誠意って、それだけなんだぁ……何かがっかりぃ……ん……チラッ♪」
「うっ……」
 両手でスカートの端をつままれる。たくし上げのパンチラで誘惑された。可愛らしいピンクのパンティに目が奪われる。甘酸っぱいロリロリA国美女様の媚態も、心にズキリと深く突き刺さるものがある。
「あっ、あ……」
「ねっ。それだけ? んっ……♪ 見てぇ……おパンツちょっと細くしてぇ……んんっ♪」
「ああ――」
 淫らにくい込む下着。露になるあどけない性器の輪郭。甘い嬌声の誘惑。
「んっ♪ お兄ちゃんっ♪ 私ね、ここいじいじするのくせになってね……」
 薄い布地の裏で、小さな指がくちゅくちゅと妖しく蠢いている。僕を音とイメージの刺激で貪欲に誘惑している。
 あの中は一体どうなっているんだろう――。そう思うだけで頭が真っ白になる。思考不能の状態で。もう操り人形だった。
「よ、いや五十万払います。どうかこれでご勘弁を……」
「え、五十万? うーんどうしようかなぁ。ま、本当はもっと欲しいけど……古い事件だからおまけしておくね。はーいお札束いただきまーす♪ ありがとうベイタのお兄ちゃん♪ チュッ♪」
「はっ、はいぃ。ありがたき幸せに存知まするぅぅう」
 トランス状態。多方向から圧倒的な多幸感。A国美女様からでしか味わえない麻薬的なパラダイスゾーン。
「いちまーい、にーまい、さんまーい。ふふっ♪ 私ってお金大好きぃ……。お金くれる人も大好きだけどねぇ……」
「あぁ……よかった……。僕のお金が……A国美女様に、はは……ははは……」
 お金を嬉しそうに数えるその姿を愛おしく感じてしまう。踏まれたい馬になってお尻をぺんぺんと叩かれたい。戦場に行けと命令されてむなしく命も散らしたい。
「ねっえ~ん♪ そこのベイタ! 私もこの事件、ちょっと納得いってないんだけどぉ……。ほらこれ、絶対にB国に非があると思わな~い? ねぇねぇねぇ~ん♪」
「あっああ……」
 今度はギャル風の――と言っても白ギャルのA国美女様にからまれた。露出度が抜群に高くて、チャラチャラとしたアクセサリーも非常に多い。そのどんどん距離を詰めてくる強引さと、コケティッシュで健康的な色香にメロメロ寸前だ。
「そ、その事件なら三十万で……」
「えー何? それはないんじゃなぁい? さっきあの子に五十万払ったの知ってるのよ? ほらぁ……六十万払ってぇ……私達が受けた胸の痛みはこんなもんじゃないのよ? ほらおっぱい触っていいからぁ……こんなに苦しいのぉ……払ってぇ……ベイタぁ……ほら払えよぉ……払っちゃおうよぉ……。んっんっ……んんんっ♪」
「ああっ。何て柔らかい……。う、うん。苦しみはちゃんと伝わってくるぅ……。こんなむちむちのおっぱいが手にまとわりついてきて……ああっすごい……」
 手を乱暴に引かれ乳房に溺れさせられる。両手に収まらないほどの美乳かつ超巨乳だ。特殊な薬でも飲んでいるかのように肌が白くてまぶしい。ずっと触っていたい。魅了されたい虜にされたい。
「そ、それじゃ六十万で……」
「あ~ん苦しいよぉ……それじゃ足りないっ。ちゃんと胸の鼓動を聞いてぇ……」
 ぐにっと乳房に跡がつきそうなほど取り込まれる。心地よい一体感。美白の女神様が足りないと言っている。それに報いなきゃ……僕は、僕は……。
「あっ、んっ。はぁはぁはぁ。じゃ、じゃあ七十万で……」
「もっともっとぉ……む~~ぎゅっ♪ きつく絞ってぇ……♪」
「あふぅん♪ じゃじゃあはちじゅ……」
「駄目ぇ~苦しい~~~~ん♪ どうにかなっちゃいそ~~~う♪ もっともっとぉ~~♪」
 白ギャル女神様の蠱惑的すぎる媚態が僕を襲う。メロンかと思うほどの爆乳に、完全なる洗脳支配を施されてしまう。
「はぁはぁはぁ……。くっ、ここは奮発して……きゅじゅ、いや百万、百万払うよぉ……払っちゃうよぉ……あはあは……」
「あ~んありがとうベイタ♪ む~ぎゅっ♪ むぎゅむぎゅっ♪ じゃ……これも~らいっ♪」
 ひょいっと取り上げられる百万円。まるでお金にしか興味のない態度だが、今の僕には最高に感じるお金の奪われ方だ。
「はひっ……。百万円とられちゃった……あはあはは……」
 喪失感、恐怖、絶望。そんな感情は薄くなっていった。それよりA国美女様の血となり肉となることの方が大事だった。貢いでもまた貢ぎたくなる。ギャンブルやソーシャルゲームの射幸心を、何倍にも煮詰めたような特上で危険な麻薬的行為に相違なかった、
「あらっ?」
 よく聞き覚えのある声。
 それは僕を初めて売国マゾにしつけてくれた――。
「うふん♪ 待ってたわよベイタ。この前の続き……しましょ♪ GP洋世界大戦の賠償責任……。ベイタが全部請け負ってくれるってぇ……言ったわよね? ふふっ♪」
「あっはぁいルファ様ぁ……♪ ああでも僕賠償しすぎて残り五十万しかないのぉ……」
 そう言うと、ルファ様はにっこりと満面の笑みで返してくれた。
「うふふふっ♪ 別に足りなくもいいのよぉ。ちゃんと返す意思さえあればね。はい、この書類にサインして……」
「え、あはい」
 借用書。ルファ様が渡してくれた。いくらだろう。なんだかゼロがいっぱいある。あの大戦争の賠償だから、きっととてつもない額なのだろう。今日僕が持ってきた二百万でも、きっと足りないはず。
 うんでも、ルファ様は返す意思さえあればいいと言ってくれた。僕は誠意を持ってそれに応えようと思う。あ、ここに利息とかについても書いてあるぞ。何々……。
「あなたはそこにサインするだけでいいのよ。ベイタ。早くなさい。今日もルファ様と遊びましょ? ねぇどこがいい? まだおっぱいは使ってないわよね? 後……んっ♪ このお口も♪ それともまた美脚で搾られるのがいいかしらぁ……はぁん♪」
「はぁいルファ様ぁ。僕サインすぐするするするぅ。……これでよしっと」
 ちゃんと読もうとしたら、ルファ様の声でさらさらと流れるよにサインしてしまった。僕は何も考えなくていい。ルファ様、ルファ様の命令が一番大事。
「あ~んルファ様ぁ……♪ 足好きぃ……♪」
「あらあら。やっぱりベイタは足が好きなのね。いいわ。ルファ様の美脚でどこまでも堕ちるといいわ……。徹底的に洗脳してしつけて、A国美女様の素晴らしさと歴史をた~~~っぷり刻み込んであげるわね……うふふふふっ♪」
「んん~♪ してしてぇ洗脳してぇ♪ あ~んルファ様の足裏美味しい~♪」
「ふふっ♪ ベイタは本当にそこが好きねぇ……。飽きるまで味わいなさい……ほらほらぁ……♪」
「んっ、んん――。僕幸せえへえへぇ……」
 神聖なつま先が口元にねじこまれる。それだけで僕は絶頂しかけた。
 口内をえぐられて脳をくちゃにかき回される。僕はもう足奴隷だった。A国美女様の美脚の虜になった哀れな売国マゾ奴隷――。
「あんっ♪ 射精するぅ♪」
「いいのよ出しなさい。このマゾ豚ベイタちゃん♪」
「あ――」
 少しも手を触れずに射精した。自分で勝手に心酔し倒錯し、ベイタという単語を聞くだけで無様に精液を垂れ流す変態マゾに堕ちたのだった。
「ふふっ♪ ほらまだ出るぅ♪ 今度は両脚よぉ……視界ぜぇんぶ塞いであ、げ、る♪」
「んぶっ。ん――」
 息もつく間もない射精。二回目でも濃い精液がどくどくと漏れる。
 完全にA国美女様の意のままだった。そしてそんな惨めな自分の姿を嬉しく光栄に思ってしまう。
 僕は、僕は――本当に導かれて幸せになった。
「あ~んあ~んルファ様ルファ様ぁ……」
「うふふっ♪ うふふふふ……」
 足裏でぴったりと眼球を覆うように視界を塞がれる。もうルファ様しか見えない。A国超美女様のルファ様のことが。これかれもずっとルファ様の洗脳支配化におかれることを望みながら、僕の意識は甘美な足裏へとすぅと吸い込まれていった。 
 







※終わらない妙な方向へ向かったおまけ



「うふふふっ♪ 別に足りなくてもいいのよぉ。ちゃんと返す意思さえあればね……。ね、みんな?」
「あっ、あうぅぅ……」
 ルファ様の目配せで、店内のA国美女様達が集まってきたようだ。
「はーい何ですかぁ?」
「あ、ベイタだ! 汚いB国の豚だ! きゃははは!」
「ふぅん。生きのよさそうな子ねぇ……」
 周囲をぐるりと囲まれる。どこを見ても、美顔、美肌、美乳、美脚、美尻。そして神から授けられた黄金比のプロポーション。そばにいるだけでおかしくなってしまう。
「さぁみんな。ベイタにこの世の真実を教えてあげて」
「はーいわかりました」
 A国美女様達が距離を詰めてくる。するりと一瞬で耳元へ。これから何が始まるのかと、未知の期待に脳内風船をふっくりと膨らませていた。
「ベイタ。気持ち悪い」
「ベイタ。私達の奴隷」
「ベイタ。この世で最も嫌われている人種」
「ベイタ。どれだけ罪を重ねれば気が済むの?」
「ベイタ。汚物。ゴミ」
「ベイタ。誰もお前なんか信用しない」
「あっ……」
 前も後ろ右も左も固められている。ベイタ、ベイタと蔑称を交えて言葉を吐き捨てされる。容赦のない侮蔑と嘲りの言葉が、散弾銃のように照射される。
 それは何十分も続けられたと思う。終わりにない罵倒につぐ罵倒。A国人の闇をこれでもかと押し付けられる。
「ベイタ。どうして逃げるの?」
「ベイタ。真実から目を背けては駄目」
「ベイタ。もっと心を開きなさい」
「ベイタ。私達はあなたの敵ではありません」
「ベイタ。あなたはいつ謝ってくれるのですか?」
「ベイタ。私達の声が聞こえますか?」
「うっ……」
 時間の概念が狂う。気づけば、声のトーンは少し優しくなっていた。何か諭すような、正しい方向に導いてくれるような、ほのかにぬくもりあって――。
「ベイタ。もう楽になっていいのよ……」
「ベイタ。私達はもうそんなに怒っていないわ……」
「ベイタ。過去を清算して共に歩みましょう」
「ベイタ。いらっしゃい。もう誰も馬鹿にしないわ」
「あっ、ああ――」
 寒くはないのに体が震える。歯の根がカチカチとかみ合わない。逃げなくてはならないのに、言葉に化粧された甘ったるい外装に目隠しされて真実が見えない。
「ベイタ。こっちを見て……」
「ベイタ。本当は仲良くしたいの……」
「ベイタ。もうけじめをつけましょ……」
「ベイタ。ごめんさい、しようね」
「ベイタ。子供でもできることよ」
「ベイタ。ごめんなさい……ごめんさい……」
「ごめんなさい。悪いことした時はごめんなさい……」
「私達も謝るから……ごめんなさいごめんなさい……」
「ふ、ふぁ……」
 ごめんなさい。しなけらばならないと思う。
 僕はこの人達に悪いことをした。だから謝らなければならない。
 どっちがどれだけ悪いかなんて関係ない。
 ただぺこりと頭下げるだけでいい――。
「ごめんなさいごめんなさいごめんさい僕が悪かったですごめんなさい……」
 初めて――かもしれない。
 僕は心の底から謝った。パンパンに膨れ上がった心の黒い袋を、針で突き刺して解放した。
「いい子ね。よくやったわ」
「よしよし……なでなでなで」
「あっ、いい……」
「素直な子は好きよ……チュ♪」
「お姉さんの胸にいらっしゃい……」
「ほぁ、ほぁぁ……」
 ピンクの風船がぽわんと膨らんでいく。黒の風船はどこかに消えてしまった。
 僕はもう許された――のかもしれない。
 心が楽になる。やっと本当の自分になれた。
 そんな気がする。
「好き……好きぃ……」
「愛してるわベイタ」
「これから素敵な世界を創りあげましょうね……」
「はい。はぁい……女神様達と一緒にぃ……えへへ……」
 幸せ。幸せがいっぱい。
 白くてみんなよく似た顔の女神様がいっぱいで本当に幸せ。
「んっ。好きぃ……女神様ぁ……んーおっぱい……」
「ふふっ♪ 甘えん坊さんねぇ……」
「待ってベイタ。あなたはまだすることがあるはずよ?」
「え? なぁに?」
「ふふふ……」
 女神様がにこにこ笑っている。
 でも何をすべきかはわからない。
「ゼロにしましょ……。まっさらに戻すの」
「そう。一度リセットするの。それでお互いに救われるわ」
「ね。あなたの持ってる――汚いお金」
「それ……欲望の火種よ。処分しなくちゃ……」
「あ……うん」
 お金。お金は悪いもの。
 確かにそうだと思う。これがあるからみんな苦労して犯罪が起きて戦争が起きて……。
 こんなものなくなってしまえばいいと思う。
 どうして神様は必要ないものを創造してしまったんだろう?
 もしかして頭がちょっと足りない神様なのかな?
 でも、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
 優しい女神様達に、お金を渡さなくちゃ。
「これぇ……。僕いりません。もらってぇ……」
「ありがとうベイタ。よくできたわね。これは責任もって処分するから安心してね」
「ベイタ。本当にありがとう」
「ベイタ。素敵」
「ベイタお兄ちゃん大好き~♪」
「ベイタって、世界を平和にした勇者の名前じゃない」
「ベイタ万歳……A国も、B国もばんざーい♪ ばんざーい♪」
「わぁよかったぁ。僕いいことしたぁ……あはぁ……」
 お金を渡すと、心の荷がすっと下りたような気がした。
 やはりお金は諸悪の根源に違いない。うん、そうに違いない。
「ね、ベイタ。お金って本当に汚いわね」
「う、うん……」
「お金……全部なくなってしまえばいいのに」
「お金、やだなぁ~」
「お金大嫌い……うんざり」
「はぁ……お金お金お金」
「あ、あわわ……」
 女神様達が困っている。僕がなんとかしなければと思う。



  1. 2015/06/28(日) 21:25:08|
  2. SS
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マインディアのチラシの裏的SS。何か書きたかった。雰囲気。


 陰鬱――私を永久に縛り続ける崇高な理としての、『怠惰』というごく絶対的規範が鬱蒼とした森の中で蠢いている。
 重苦しく狭い部屋は、雑多に散らかされた空のペットボトルとヨーグルト容器でごったがえしていた。
 私はこの世界には――たぶん発生してはいけない存在のように思う。
 他人との境界。紛うことなき漆黒の歪。
 深くほの暗い谷間が、地獄の釜のごとく大口を開けて静かに微笑んでいる。
 つまり、私は究極的に怠惰であるということだった。
 なぜかしら? 時を刻む体内時計は最初から壊れていた。
 既に朽ち果て腐食した針は、寂寥とした過去の鳥篭にとらわれて微塵も動く気配を見せない。
 生命として必要な、本来備わった本能知識はごく微細に、かろうじて崖下の一本杉にぶらりと垂れ下がっているだけだ。
 
 片付けられない女?
 違う、根本的に違う。

 私はあるがままの自分としてこの怠惰を謳歌している。
 物心ついた時から、ひっそりとこの空間を理想として生きてきた。
 薄高くこんもりと積みあがる過去の堆積物――私が私としてあり続ける理由。
 停滞しているものこそ美しい。手を加えずただ呆然と成り行きをみつめ、為すがままにして堕ちゆくべき限界まで切り詰めた先に存在する理想の桃源郷。
 本音を言えばただの不衛生なゴミの山だが、私にはある種の恍惚感と征服感さえ感じるのだ。
 断層のように折り重ねられ熟成された末に生まれるかけがえのない何か。排出脱出できずに悶え苦しむ独房死刑囚の断末魔――。
 怠惰は美しい。手放しで、放任主義で、やる気の一つも見せずに、生きる意味をなくしても、私はあるがままでいたいと思う。
 薄いシーツ一枚の白いベッド。
 ここだけは少し綺麗にしておく。
 私の目を楽しませる錬金術のお城を、一番心地よく観察できる場所だからだ。
 私の白い肌。もうどれくらいまともに日に当たっていないのだろう。
 思い返す記憶なければ、思い出す意志もないしエネルギーもない。
 生白い腕に同じく白い棒のような足も滑稽だ。
 ただ部屋の中をすすりと歩くだけの、わずかな筋肉繊維を身に纏っているにすぎない。
 私の水分は100%必ずミネラルウォーターで補給する。それ以外の水は飲まないというこだわりだ。
 そして一日の主栄養源として、三個のヨーグルトをすっかり萎縮しきった胃の中へとすすりこむ。
 もう何年もそんな生活が続いている。決して変革を求めず、ただ傍観する船長のごとく時の行く末をぼうっと見守っている――。
 諦観? いや諦めてはいない。
 私は――全力を尽くしている。
 限りなく最小のエネルギーを燃やし、最も有効な活動行為に心血を注いでいるのだ。
「……………………(もぐ)」
 私は冷蔵庫に残った最後のヨーグルトを食べてみた。
 一人でも決して音をたてるようなことはしない。だって空気を振るわすのも面倒だから。
「……………………(ごくごく)」
 水も飲んでみた。清流の匂いがする。澄み渡る渓谷の景色が私を白鳥に変えていく。血液から内臓まで心が洗われる。
 摩擦、空気抵抗、重力、人と人とのしがらみ。
 全てが霧の中へと消えていく。
 どうして、この世界はこうも重苦しいのだろう。
 もっと自由に、私の小さくて錆びついたギアでも軽々しく羽ばたけるというのに。
 ふわりと体が舞い上がる。宇宙遊泳のようにくるりと体が回転する。
 呼吸、思考、それすらも忘れてしまいたい。
 何かに委ねるもの――全てを任せられる存在?
 それが何かわからないけれど、きっといつかそこに辿りつければ――。
「コトミ様? いますかー?」
 来た。奴らだ。
 私の崇高な妄想を中断させる、すえた臭いのするヒトモドキという化け物。
 這うようにして扉へ向かう。カチャリと掛け金をはずす。
「コトミ様ー? いるんでしょう? 入りますですよー?」
「…………………………(こく)」
 私は心の中で一度だけゆっくりと頷いた。二人には絶対にわからない極めて緩慢な角度と速度で。
「あらあらー。こんなに汚して……。すぐお掃除いたしますね」
「コトミ様! 言われたものを買ってきましたでございますわ!」
「……………………(ありがと)」
 どさりとビニール袋が落とされる。中身は大量のペットボトルとヨーグルトと雑誌その他もろもろだ。
 私は無言で感謝の意をかろうじて示した。がやはり二人には聞こえていないし伝わってもいないだろう。私とはそういう人間だからだ。
 彼女達は――私には確か母がいたようで名前も思い出せないが、その母らしき人の命で二週間に一度ぐらい私の居城へとずかずか土足で侵入してくる。
 今早速掃除をし始めたのが緑、私の中では緑っぽい服なのでそう呼んでいる。
 対して語尾に妙なアクセントがあるのが紫、やはり紫だ。
 名前は必要ないし面倒だからどうでもいい。私の住まいに悪影響を及ぼす悪魔のような存在が二人だ。
 ただしやはり人間は悲しいかな。この二人のもたらす飲み物とヨーグルトがなければ、私はこの世界では生きていけない。本当に悲しいがそうなっている。
 別に死んでもいいけれど――。死というのも、やはり果てしなく面倒そうな気がして――、私の信条に反するような気がして――。
 自己矛盾? 自己倒錯? ああわからない。
 そんな鬱屈した思いを抱えながら、私は今日も流されるままに怠惰を取り込んでいる。
「う、うわー。いつ見てもすごいゴミの山でございますよー」
「さっさと片してキョウコさん。四の五の言わずにね」
「はいなタミコさん。でも、私いつも思うのでございますけど、どうして全部片付けないんですか?」
 紫の方が当然の疑問を口にした。
 それにはちゃんとした明快な答えがある。
 理由――部屋の堆積物指数は60%以下になってはならない。そうでないと私の健康が害されてしまうからだ。積もり積もった部屋の中に所有されているという穏やかな安堵。心を満たし精神を落ち着かせる芳しく懐かしいような充足感。
 もしそれが取り払われてしまったら――私は即刻心臓麻痺で死んでしまうだろう。実際にはたぶん死なないがそんな確信がある。
 逆に、堆積物指数は多すぎても駄目だ。限界は150%。これを超えてしまうとパンクする。私は全然大丈夫だが部屋の方が耐えられない。
 現在は――ざっと120%。ここからが楽しい時間でもあるがまぁよしとしよう。
「駄目なんですよぉ。ねぇコトミ様?」
 緑が言った。私は視線を微動だにせずテレパシーで合図した。
「ねっ、コトミ様の言うことは……絶対です。お母様からそう事づけられていますから」
「それにしたって……はぁ……。こっ、この……あ、いえ。何でもないですわ! さぁお掃除お掃除……」
 緑と紫はてきぱきと仕事をしている。
 私は当然のごとく待ちぼうけで見ていた。
 この人達は私のために動いてくれる。私のために。よくわからない母の命令でも色々としてくれる。
 でも、それでも――。

「……………………(死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ)」

 そう言わざるを得ない。やはり異次元世界からのイレギュラーは排除されるべきだと思う。数パーセントでも私のお城を壊す可能性があるのであれば、それは許されることだと勝手に思う。
 そんな私の殺意思念も露知らず、二人の清掃活動は着実に進行していた。
 およそ指数にして75%。ちょっとスースーするが、これぐらいがちょうどいい頃合だと思う。三日もあればすぐに取り戻せる。
 私は一歩前に出て、ほんのちらっと目配せをした。これが、簡素な意思表示となる。きっと緑は気づいてくれるはず。
「ふぅ……。綺麗に――なりました? ねぇキョウコさんお茶にしましょ。紅茶入れてくださいな」
「あ、これで終わりですか? はぁ、了解いたしましたですわ!」
 どたどたとうるさい足音で紫が台所へと消えていく。紅茶は嫌いなのだがせっかくだから仕方ない。
「コトミ様、ベッドのシーツもお代えしますわねー」
「……………………(ありがと)」
 物言わぬ私。ひょいと牛歩の動作で敬礼し、緑の仕事ぶりを淡々と見つめ続けた。
 シーツ。純白のシーツ。
 私がいくら怠惰で穢れていても――これだけはゆずれないと思う。私の細胞100%を占める乳白色の根源。このベッドでいつも安らぎたい。
「コトミ様……。私めが言うのもなんですが、その、このような生活は……。お母様も……あ、いえ、失礼しました……」
「……………………」
 私の苛立ちが伝わったのだろうか。緑は背筋をぶるっと震わせてそのまま口をつぐんだ。
 記憶もない母のこと。そして私のこと。なんびたりとも理解されない私だけのテリトリー。あまねく群青色の宇宙空間の隅で、ひそかに玲瓏と輝き続けている。それが私。私だけの怠惰。
 理解――などは到底されるはずもないし、こちらからもする必然性も道理もまるでない。
 一から十までないない尽くし。否定の権化でもあるが、積極的に叩き潰すのではなく、どこまでも忌避し逃避し続けるがゆえの退廃的な侵食風景だ。
「紅茶でございますよ~♪ ケーキと一緒にお召し上がれ~♪」
 紫がうきうき顔でやって来た。何が嬉しいのかわくわくしているのか、私には全く伝わらないがどうでもいい。
「あむ。このケーキ美味しいわね」
「そうでしょうそうでしょう。はい! コトミ様も一口どうぞ!」
 不意の催促。食べたくは――ない。
「……………………(あーん)」
 私はケーキの一欠片を口まで持っていく。が、あまりにもその動作が遅すぎたので、二人は私をそっちのけでまた会話に没頭してしまった。
 骨折損のくたびれもうけ。ただ腕を上方に持ち上げた手前、それを完了せずに戻すのはばつが悪いように思えた。
「……………………(もぐ)」
 これは――やはり美味しくない。体が拒否している。私はやはり越境の異星人なのだろうか。
「それであの聞いてくださいよタミコさん!」
「何ですかキョウコさん?」
「私……今安眠術に凝ってるんでございますよ」
「安眠術……? あなた不眠症だったかしら」
「いえいえ! 安眠術です安眠術。催眠術じゃあありません。人を穏やかな眠りに誘う、素敵な安眠術です!」
「は、はぁ……」
「たった二万円で安眠術の通信講座を習いました。これからの時代はこれですわ! ささ、タミコさんも私と一緒に安眠術の道を究めましょう。時代は私達のような人材を求めているのですわ!」
「キョウコさん……。あなたそれ騙されてるわよ? いつか変な宗教に洗脳されるわ。気をつけなさいよあなた」
「いえいえ! 私は本気で……」
 蚊帳の外。意味を成さない音声振動記号。
「……………………(早く帰って欲しい)」
 欠伸が出そう。でも私はしない。まぶたがひっつきそうになる。彼女らの抑揚のない念仏が、私にとってこの上ない安眠術だと思った。
「タミコさん、これ見てくださいな。この近くで殺人事件……ですって!」
「あらキョウコさん。新聞を見るのがご趣味なのね。このご時勢珍しいわ」
「被害者は包丁で……抉り取られたような深い裂傷を……。
「あら本当に怖いですわぁ……」
 二人はいつの間にか新聞記事の話題に、深く拘泥するように没頭していた。
 殺人――事件。殺人、事件だ。つまりは字面の通り人を殺すことだ。
 殺人とは、うん、やはり元来怠惰すぎる私にとってはとてつもなく遠い事象にであるように思う。
 包丁を持ち、ぐっと意志を固めて、きちんと殺傷し得る物理ベクトルで、予知される刑罰の災害に警戒しつつ行為を速やかに行わなければならない。
 つまりは非常にエネルギーを使う。後片付けにも余計に気をつかわなければならない。面倒、至極面倒。
 うとうと。私はもっと何もせずに眠っていたい。私が人を殺すとしたら、眠るような凍てつく怠惰で殺してあげたい。私は何もしないけれど、他人に一切気遣いする気は微塵もないけれど、朽ち果てるように侵食風化する悠久の時の中で、その最期を静かに看取ってあげたいような、そんな後ろ向き二百歩の消極的殺人ならまぁまぁしてあげてもいいと思う。
 とにかく私はもうかなりだるかった。
「はぁ……。本当に恐ろしい世の中になったものです。どうかコトミ様も気をつけてくださいね」
 緑が思い出したように私の方を向いた。
 大丈夫よ――と私は心の中で唱えた。外には出ない。時の流れの緩やかなこの空間で、私は死ぬまでのレクイエムを囁き囀り続けるのだから。
「……………………(これ)」
 乱雑に破った白いノートの切れ端。私が欲しい物を一覧に細かく書いてある。前もってこうしておけば簡単だ。口で話すよりも無意味な愛想の表情を作るよりも、ずっともっと簡潔で理想的な伝達行為。
「あっ了解しましたコトミ様。それではそろそろお邪魔だから……」
「コトミ様! 今度来たら究極の安眠術をかけてあげますね! どんな不眠症でもたちどころにスヤスヤのおねむでございますのよ……」
「……………………(こくん)」
 私にだけ感知できる角度のおじぎで返す。
 何と言うか紫に呆れる。私は不眠症らしい不眠症に一度もなったことはないから。いついかなる時でも――鬱蒼と湿った森の眠り姫のように、すぅすぅと王子様を待ちながら寝息をたてることができるのだ。
「……………………」
 二人は――帰った。
 私の時間。私だけの空間。
 まばらに潜む蔓草の伸縮が、私の細い体に絡みつき四肢の自由を穏便に奪っていく。音もなく脈拍もなく景色もなく、私があるがままの静寂を共有する、たった一人のアンテーゼの逸脱として健やかにその萌芽を希望しているのだ。
 とにかく――寝よう。疲れた。
 陰鬱なる現実の瑕疵爆撃を修復するために。私は眠る。いつまでもぐぅぐぅと恣意的に眠りこけるのだった。


「……………………(ぱちり)」
 目覚め、起床。復刻して――夜。
 昼夜逆転でもない曖昧な体内時計が雲雀のネジを巻く。
 何か飲まなきゃと思う。無論、私が口に放り込むものなんて、多くて二つしかないけれど。
「……………………(ごくごく、はぁもぐもぐ)」
 寝起きには何か入れたいと思う。消化吸収したいと思う。そうでなければ人間ではなくなる。朝起きて、人でならぬ何かに変容するのもそれはそれで楽しいが。
 白いほのかな甘味のある乳性の固形物。牛の、家畜からできる組成物というけどたぶん栄養はたっぷりだと思う。だってこんな私が今まで生きていられるんだもの。
 一つだけでお腹いっぱいになる。収縮し続けるブラックホールとは真逆の、怠惰に収縮するホワイトホールが私のへそ粘膜の裏側に位置している。
「……………………」
 物憂げに、無言で体を起こす。暗い、ほの暗い。
 月明かりにカーテンがうっすらと恐怖をしている。
 外――。私が外界へ旅行したのはいつの時だったか。
 必要も理由もない。この数メートルでプロローグからエピローグまで簡単にループできるからだ。
「……………………(でも、久しぶりに)」
 明暗の名案? 私はひらめいたのかしら?
 この渋滞を打破するたった一つの解答が、今一文字に私の喉笛を噛み切ってくれたような気がした。
「……………………(と、すると)」
 私は外出するための衣服を探そうとした。一番白い、一番汚れていない白いワンピース。そのおぼろげな記憶だけで期待に高揚する。
 堆積物の山という山。けれど、私にだけは場所がわかる。記憶ではなく当然の存在位置として目標物を予言しているのだ。
 そして、あった。私はいそいそと着替える。ついでに下着もかえた方がいいかしらもなんて。別に何があるわけじゃないけれど。妙にうきうきとした気分で底なしの沼地から息継ぎをしてみた。
 言うまでもないが、私はやせっぽちなのでブラはつけない。こんな貧相な胸を隠すいわれもないし伝統もないし。何より余計なものを装着するのは当然のごとく面倒だから。
「……………………(準備は――できた)」
 とにかくやっと私は玄関までたどり着いた。自分自身としては気持ちが高ぶって早送りにしてみたつもりだが、ここまで数十分は浪費してしまったかもしれない。
 ううん、それでもいいの。きっと夜は長いから。お月様とお星様が、私のために時の門番クロノスに催眠術をかけてくれるから。
 サンダルらしきものに足をつっかける。髪はとかしていないが私はサラサラだと思う。
 ガチャリと重いような金属音で、優柔不断な開かずの扉がついに口を開けた。
 私は――自由。今、そんな気持ち。
「……………………(ラララ――歌いたい)」
 声を出してスキップしたい。私のイメージ。けれど声も出ないしスキップはできない。
 衰えた声帯と脚力が私の期待をせきとめて落胆させる。
 それでも――私は歩幅広く意気込んでみた。
 見て、私はあまねく星空の妖精タイディ。ちょっとのんびり屋さんだけど、心はとっても純粋で一番綺麗なの。
 美人な人。性的魅力のあふれる人。みんな差し置いて、きっと私を選んでくれる王子様。私の心の殻を優しく破ってくれる。私にとっての逆説的なファム・ファータル。かけがえのない1カラットを保有する、ベガとアルタイルが子午線で口付けをかわすような。
 そんな彼なら私も何かしてあげたいと思う。指が一本しか動かなくても、頑張って二本動かしてあげたいと思う。もう一歩しか歩けなくても、うんうん唸りながら一歩半の妥協を叶えてあげたいと思うし。
「……………………(ラララ、ラララ――)」
 私はまさしく妖精となった。妄想にメロディー乗せて、虹彩に内包する難解なアカシックレコードに思いをはせながら。
 こんな軽やかなリズムはいつぶりだろう。
 着地。
 物語はピリオドを打った。
 小宇宙を駆け巡る消化管が私に力を与えたのだと思う。だが実際は非情だったようだ。
 私の感覚ではゆうに数十キロを走破したように思えたが、ほんの五メートルほど。やせ細った筋肉が地面に牙をむくには程遠かったようだ。
 でも、いいの。私は私なりによくやったから。
 そして――人影。
「……………………(あっ)」
 それは運命的な出会いだとあらかじめ知っていた。緑と紫が今日来たこと。あの新聞記事。全ては白馬の王子様に会うための、極めて用意周到な伏線操作が考案されていたのだと思う。
 私の服装は、白いワンピース。膝が隠れるくらい。白い肌で、素足にサンダルだ。長く手入れのしてない髪を振り乱し――ろくに鏡をみてない酷い顔で……。いや、今は私は星空の妖精なんだから、それぐらいは譲歩されるはず。
「……………………(ねぇ王子様。あなたが本当に王子様なら)」
 彼に声をかけてみる。声は出てないけど目と体で訴える。彼は酷くやせ細っていた。私ほどじゃないけれど。
 なぜだろう。どうしてだろう。呑気な私には到底想像つかない。
 ただできることは――。
「……………………(見て)」
 私のとった行動は酷く淫らで穢れていた。しかも私が最も嫌うであろう、自ら積極的に他者にモーションをかけるという、自身の存在意義を自問自答する代物だった。
 ワンピースの裾をつまみ、そっと持ち上げてみる。
 赤の他人。初めて会った。男の人。誰か素性もわからぬ異邦人に。
 白く細い太ももがゆっくりと露になる。疑問。こんな骨と皮ばかりの棒切れを、どうして性的煩悩に訴えかけられると思ったのか。今の私はもう奈落の崖下へとダイブしていたのかもしれない。
「……………………(あぁ)」
 彼の視線。ふらふらと泳いでいたけれど、段々私の方に向いている。私に興味を持っている。こんな、幽霊みたいな風貌の私を。もしかしたら本当の幽霊だと思っているのかもしれない。でもいいの。彼が私の行動に少しでも反応してくれていれば。
「……………………(もっと、見たい?)」
 心の中でそう言ってあげた。ほとんど肉の削げ落ちた名ばかりの太ももで、私は一世一代の誘惑を仕掛けてみた。
 うふふ。見たかったら見てもいいよ。ほら、月明かりに照らされてこんなに綺麗。道に迷ったあなたを魅了するには十分の代物でしょう?
 ほら、こんなに細いのよ。あなたの腕よりもきっと細いわ――なんてそれは言いすぎかしら? ねぇ早く来て? 私と一緒に妖精の世界で厳かな語らいを始めましょうよ。
「……………………(うふっ)」
 私は――笑った。口角をほんの一ミリほど。
 それがおそらくは決定打になった。
 彼はゆっくりとゆっくりと私の方へと歩いて来た。闇夜の視力でも、彼の容姿が明らかになる距離に。
 私の好み? いや、見てくれの好みなんてよくわからないしどうでもいいし。
 それよりも大事なのは――私よりもほんの少しだけやる気が上なことだけかしら。
 気づけば目前におよそ80センチ。唇は触れ合わない距離。ロマンチックとは言いがたいお互い面倒な境界線。
 本当に、本当に面倒だけれど。彼を、私は手に入れたいと思った。男を。きっと運命の人かしら?
 私の部屋へ、鬱屈した古時計が眠るあの歪んだ空間で、そこに連れ込めばきっと虜にできると確信した。
「……………………(来て)」
 おいでのポーズを人差し指だけで。
 ……おいで、ついて来て。私がこんなに必死で誘っているのよ。あなたはそれに従うだけでいいはずよ。ううん、わかってるの私は。あなたと私が似たもの同士だってことが。誰かに運命を委ねたいのでしょう? だからそれは今。私はおそらく知っている。
 ねぇ一緒に溶け合いましょう? ほら、私の住まう蜘蛛の巣へいらっしゃい。食べてあげる。なんて。ゆっくりゆっくり、時間をかけて意識も感知もすることなく、甘い蜜のような怠惰に包みこんであげる。
「……………………」
 私は変な妄想をしながら彼を見えない糸で引きずった。
 この時の私はダークヒーローならぬ闇のヒロインだった。男を淫売宿に連れ込む娼婦と思われても仕方ない。でもいいの。これがたぶん最後の誘惑になると思うから。
「……………………(入って、もう少し)」
 半開きのドアに、するりと私がすべりこむ。薄い壁画のような私。そして片目の隻眼で彼の次の動作をじっと見つめた。
 大丈夫。糸は彼の足にも手にも心臓にもきっと絡みついている。怠惰に付随する負の欲望――。傍観する彼の貪婪な性癖に確実に火花を散らせていると思った。
 一分が、二分が、正確な刻みは神々の頂きへ。私と彼だけの静謐な時間。
「……………………(ありがとう)」
 彼は入ってくれた。無論、私が呼び寄せたのだが――結果的には同じこと。
 後はほんの一押しすればいい。どこ? 私は本能的にも知っているし、不可思議に及ぶ文字列の集大成の中から一つの解答を既に導きだしていた。
 音もなく彼の後ろに回る。そして張り付く。
「……………………(落ち着くでしょう? 今あなたに刻印を授けてあげる)」
 彼は頭一つ分私よりも大きい。ズボンの前にするりと手を伸ばす。見えなくてもわかる。彼は勃起という海綿体が膨張する現象に悶えている。
 禍々しくも妖艶な漆黒の鉤爪で、無防備な前頭葉にさっくりと奇怪な手術を今施してあげるの。
 逃げ場はどこにもないはずよ。ほら怠惰の憂鬱な匂いをかいでごらんなさい。いい匂い。芳醇な香り。脳髄を麻痺させ判断力をなくす魔性のパヒューム。
「……………………(ちょん)」
 気持ち、薬指で触ってあげた。それなのに、彼ったらびくんと二センチほど飛び上がったのがわかった。
 ちょっと可愛いと思った。
 もう私は寝てるだけでいい。全て終わった。疲れたし。白いベッドでぐっすりと惰眠をむさぼりたい。
「……………………(はぁ)」
 身を横たえてみる。彼は――うずくまっていた。なぜだろう。なぜ彼がここにいるのだろう。いやもう儀式は終わったのだから考えないようにしよう。思考が鈍磨になりねじれていく。皆無になるシナプスの明滅率。そして広がる空白のナショナリズム。
「……………………(最後に)」
 眠りたい。眠りたいけれども。彼には意志を伝えてあげたい。
 足の裏、きっと足の裏がいい。私の白い足に、足に、足に足に――。
 そう願っていれば伝わるだろうと思った。
 闇は落ちた。するすると緞帳は下り、ギロチンのごとく私は押しつぶされた。


「……………………(はっ)」
 目覚め。まだ夜。それほど時間はたってないらしい。
 そうだ。彼は……。
「……………………(あら)」
 足元に何か違和感を感じる。これはそう、舌――。
 彼は私の足の裏をぺろぺろと舐めていた。私の思いは通じていた。さすが私の彼だと思った。私が口に出さなくても、ほとんど目だけで意志をくみとって、例え寝ていても何でもしてくれるような素敵な人。
 そう、これは神様が与えてくれた運命の出会い。そうとしか考えられない。そうでなければ寝てる間に女の子の足を舐めるなんて、絶対に起こりえないもの。
「……………………(こっちも)」
 そっと寝返りを自然にうつ。今は右足を舐められていたから今度は左足。ちゃんとわかってくれるかしら? 受け取って、ほら私からの恋文を、あなたならきっと――。
「……………………(ああ)」
 やっぱり舐めてくれた。嬉しそうに愛おしそうに舌をはわせてくれた。まるで子犬のよう。私のペット。世界で一つだけの愛玩動物。
 彼との相性は、雄ネジと雌ネジがぴったりと合わさるぐらい抜群みたい。単純に嬉しい。もっと楽しませてあげたい。もっと私の魅力にはまらせてあげたい。こんな私だけれど。あなたのほんの少し段違いの愛情を、全て私を楽しませるために注いで欲しいと思った。
「……………………(次はここ)」
 私はいやらしいことを考えてしまった。ご褒美? そうかもしれないしそうでないかもしれない。
 指の股を広げて見せ付ける。一本の足に四つの溝がある。二本合わせて合計八つの溝だ。
 ここも舐めてもらいたい。足の裏も舐められるのなら、大して差異はないと思う。ああでも。
 私がシャワーを浴びたのはいつごろかしら? 浴びたは浴びたとしても、しっかりと足先まで石鹸をくぐらせるなんて全く記憶には存在しない。
 この谷間には――積もり積もった怠惰の蓄積が――それは私の全てであり――明朗活発な分泌物の六法全書。
 いや特に難しく考える必要はない。私は正しい食事をしているのだから、排泄物にも濁りはほぼ存在しないのだ。
 私は綺麗。何もしないから綺麗。紫外線なんか浴びないお姫様。誰もがうっとりするような美貌――外に出るのが面倒だから、日の目に晒されることはないけれど。
 王子様は来てくれた。私の寝所に忍んで来てくれた。
 私の足を舐めるために。指を股を舐めるためだけに。
「……………………(ほら迷わなくていいよ)」
 固まっている彼に促してみた。誘惑してみた。足の親指と人差し指の間、一番美味しそうな味がしそうな部位。ぐにぐにと前後左右に動かしてみた。
 ほら来て? これが私。そしてあなたが求めているもの。ねぇ……ねぇ……私の鐘を鳴らして。暗い黒魔術の結婚式。嫌われ者の魔女の秘薬で、私達は真のつがいになれるから――。
「……………………(あんっ)」
 私の意志が通じたのか、彼の頭が鉄砲球のように飛んできて、濡れた舌先が白い溝へとすべりこんでいた。
 本当に、犬のよう。息をはぁはぁと荒げて。もう私の指しか目に入っていないみたい。
「……………………(いいよ。もっとして)」
 彼は必死だった。皮膚がふやけるぐらい唾液を丹念にまぶして。長年にわたる皮膚の老廃を、私への愛を触媒にしてビーカーという聖杯に溶け込ませていく。
 ああ気持ちいい。本当に気持ちいいわ。心が洗われるよう。見せ掛けだけの残酷な石鹸分で、無理矢理こすりとるような野蛮な真似じゃないわ。
 いいよ、もっとして。私を食べて。それは私。私の心がそこから広がっていくの。ほら、私はまだ七つも残っているわ。私を感じて。もっと、もっと繊細にじっくり味わって……。
「……………………(あっ)」
 思わず声が出そうだった。彼の舌が今度は人差し指と中指の間に。ああ本当に可愛い。そんなにがっついて舐めるほど私が好きなのね。いいわ。もっと愛してあげる。愛してあげるから――もっと時間をかけて……のろのろゆっくり……私はゆっくりが好きだから。
 一つの溝につき最低10分かけて欲しい。だから全部終わるまで……ふわぁ1時間半もあればいいかしら。まだ眠たい。夜は長いから……もっと楽しめる。何もしないで、私はただ眠りこけているだけで――。


「……………………(ん)」
 再びの覚醒。そうだ……彼は――?
 ちょうど左足の薬指と小指の間を舐めている最中だった。これはとても都合がよかった。
 ちゃんときっかり時間を使ってくれたみたい。私の体内時計がそう言っている。
 彼とのつながりが深まっているような気がした。何かご褒美、何がいいだろう? 彼が一番喜ぶもの――。
「……………………(何がいい?)」
 私は顔をちょこんと持ち上げていた。私が白いベッドに横になってから、ゆうに数時間がたってから、初めて彼の方に真剣に視線を送ったのだった。
「……………………(ふーんそう)」
 物言わぬ彼。けれど私には大体わかった。あなたも結局助平な男の子だってことね。
 そのぶら下がった一物を女の子にいじられたいのね。いいわよそれが望みなら。でも私はとてつもなく面倒くさがり屋だから。私が直接してあげるのは遥か西遊記の旅路よりも長く険しく困難なはずだわ。
 毎日、毎日来て欲しい。夜に。
 そうしたら願いを叶えてあげる。あなたの望み。私の足の裏に粗末なオチンチンを擦り付けたいのでしょう? 変態。射精もしたい。どくどくと白い液体を。
 いっぱい我慢させてあげる。今日も舐めている間カチカチにしていたのよね。無駄に我慢汁垂らして。今度からカーペットを汚したらそれも舐めさせてあげる。案外それは名案かもしれない。
「……………………(楽しみね)」
 私は目で合図した。彼がぴくっと震えるのがちょっと嬉しかった。




 彼の夜這いは率直にいうと三日続いた。
 その後はとんと音信不通になってしまった。いや、元はといえば私の勝手な都合だ。年がら年中暇な私の、自分勝手なスケジュール帳だ。
 彼の都合も当たり前にある。彼は普段何をして何を考えて何を食べて――。
 ああなんで心がこんなにも揺らぐのだろう。そういえば彼の名前さえ聞いてなかった。
「……………………(はぁ)」
 短い嘆息。二人はつながっている――なんて確信しながら私は馬鹿だ。千載一遇のチャンスを逃してしまった。
 涙が出た。悲しい涙。後悔の涙。私はそんな他人に捧げる涙なんかないはずなのに。
 今は彼のために涙を流した。
「……………………(うぅ)」
 ひとしきり泣いた。すっきりした。もう寝ようと思った。
 彼は――最初から存在しなかった。そう思って自己肯定した。


 それからまた何日かが過ぎた。
 彼は依然として来なかった。
 そして、緑と紫も現れなかった。二日三日、予定の日を超過しても。
「……………………(こない)」
 私が日を間違えている可能性もあったがやはり音沙汰なかった。
 一体、どうするのだろう。この山という山。いくら怠惰を司る私でも――この無限の広がる小宇宙を制御する力はない。
 そうか。私は悟った。己の卑小さを醜さを。
「……………………(ごく、あーん)」
 最後の水滴を、名残惜しそうに逆さにする。これで、もう私が飲める水分はない。水道水を選ぶという概念は無視している。
 チェックメイト。簡単に詰んでしまった。
 ただそれが私の人生。このまま心臓が止まり脳が止まり部屋と一体になり、悪魔でも天使でもなく神でもない、理解の届かない茫洋かつ曖昧な何かになるのだと思う。
 私には生存本能はあるのだろうか? 待って、限界まで待ってみればおのずと発現するのかもしれない。
 数時間が経過。血液は滞る。近づく死。理想的な自死でありスーサイド。
 もう何も考えずに寝ていれば、
 目をつぶる。瞼の裏側に焼きつくのは誰の残像かしら? 彼、そうだ彼はどうして――。
 うん、私はまだ真実を知っていない。ここで死ぬのは――ある特殊視点から俯瞰する場合において理論的ではない。
 私はおかしくなっていた。望まれた死に際であったはずなのに、運命の交差点に頭から飛び込んでみたかった。
「……………………(まだ)」
 右手だけはかろうじて動いた。その指がつかむもの、天意でもなく栄光でも名誉でもない――パンドラの箱から這い出る無数の百物語。
 一枚のしわがれた印刷物――これは。
 殺人鬼。そう、彼女は積極的に死を支配する人間だ。怠惰を断ち切り過去を亡き者し未来へと昇華させる、まるであおつらえ向きに用意された三途の川辺鬼。
 彼女に会えば――きっと彼に会える。妄想の飛沫が幻想へと。
 今度はもっと優しくしてあげたい。千時間や二千時間ぐらいかけて、10本の指であなたの股間を悩ましくさすってあげたい。焦らして焦らして、発狂しそうなほどの忘我さで。
 何なら足の裏にも擦りつけていいわ。私は眠っているだけだからそれが一番楽。私に魅了された瞳と心で、何も考えずに腰を振ってしまうの。私が眠っている間、何時間でも何年でも太陽が爆発しても宇宙が壊れてもそうし続けるの。
 あなたのスイッチは私の起床だけ。目が、ゆっくりと開いたら、その時は射精してもいいよ。私のために、あなたの愛をしっかりと受け取ってくれる。無限の期待を内に秘めた――迸る白濁をどくどくと漏らして完全なる一つの涅槃となるの。
 よかった、まだ私はこんなに想像できるじゃない。
 起きて、立つ。平たい床に二本の釘を刺す。
 新聞の切れ端を握り締めて――私は駆け出した。
 朝方の霧が鬱積して、一寸先も見えない雲行きだった。裸足で歩くのはミクロの逆数千里でしかなく、つまり現実単位でわずか150メートルに匹敵する。
 私のタイムリミットは実にそれしかない。体力的にも精神的にも由緒ある関門はことさらに楔を打ち込んでいた。
 彼女に会いたいそして彼に会いたい。私の魂をかの幻想世界まで届けてくれるのならば、身を切り刻む悪夢の疼痛を儚く受け入れようと思う。
 折れたように、足はぎくしゃくとして動かない。当たり前。繊維がぷちぷちと悲鳴を上げて分断されていく。心臓から肺臓に至るまで、ひっきりなしに急き立て叫喚し絶望的な青絨毯に血糊をべったりのさばらせていく。
 もう――歩けない。
 でも、辿りついた。
「……………………(私を)」
 見つけた。あの残像記憶は間違いない。
 白い霧に悠然と跳躍する、巨人のような凶刃が薄高く笑っていた。
 はた目には自殺かと錯覚する、極めて驚異的で積極的な死のバージンロードに感応していた。
 ぜぇぜぇぜぇと息が酷く荒い。ただし、神様は最後に私を救ってくれたみたい。 
「……………………(ころし――)」
 言いかけた刹那、にやりと黒い影法師が空間を切り裂いた。いや、私の方眼紙パピルスもまぜこぜにして真っ二つに溶解させた。
 崩壊する痛みも緩やかに――けれど反射する感覚もそれを上回る怠惰レベルを超越した。
 ――これで彼に会える。
 そう思いながら、静かに瞳を閉ざして眠った。
 




  1. 2013/10/25(金) 22:44:08|
  2. SS
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少年戦士アークの大冒険

ちょっと小ネタのSSです。
♂×♂要素があるので注意。


予定のCG集はすごい誘惑してくるけど、
いざ本番になったら完全無視で
男だけが腰を振るというニッチシチュになります。

スマホとか本を読んだり別のことを考えていたりと
何か琴線に触れたので出してみたいと思いました。
基本六枚で差分で50枚以上にはなる予定です。


音声でドキドキ色仕掛けダンジョン
ほぼ泣き声オンリーで誘惑するロリっ娘、
お金で釣るセレブクイーンと二つ書くかもしれません。

後エスパ様も三人以上の掛け合いはやったことがないので
色々やってみようかなーと思います。

では。




 少年戦士アークの大冒険


 少年戦士アークは、意気込んで眼前の敵めがけて剣技を繰り出した。
「くらえっ! ドラゴンスマッシュ――」
 が、威勢がいいのはかけ声だけだった。足さばきも筋力も伴わない彼の剣筋は、魔性の力により人を襲う邪悪へと変貌した妖精――リトルシルフにはまるでかすりもせず、ふわりと空切り物言わぬ地面へと剣先を深々と突き刺す結果となった。
「うふっ♪ はずれだよお兄ちゃん♪」
 からかうようにシルフは笑った。ほっそりとした肢体に透けるワンピースから伸びる太ももや二の腕まぶしい。極めて低位の魔物だが、いたずら好きで人間を惑わせて虜にしてしまうのが趣味である。
「くっ。僕の必殺技をかわすなんて……。だがまだ!」
 年若い戦士はこれぐらいでへこたれるわけはない。すぐさま体勢を立て直し、くすくすとこちらをあざ笑うシルフへと突撃を開始した。
 胸の前でぐっと剣を両手で固定し、直進的な動きでわき目も振らずに邁進する。
 読みやすく猪突猛進。いくら下位の魔物といえど、素早さだけは高いシルフには当たる理由は皆無だった。
「うわっ。ま、またはずれた……。でも僕は何度でも……んっ?」
「お兄ちゃん……ほら『ゆうわく』♪ ねっ……ちゅっ♪ 私といいことしよぉ……♪ ねぇねぇ……」
 不意をつかれ背後から腕を回される。妖精族の可愛らしい魅力をふんだんに活用した魅了技の一つ、『ゆうわく』が青年アークの脆弱な心に甘い揺らぎをもたらした。
「なっ、何やって……あぁ……」
「ほらぁ……私のために戦ってぇ……。あそこのお兄ちゃん達をやっつけてくれたらぁ……、後でとってもいいことしてあ、げ、るっ♪」
「ううっ、そ、そんなの誰がっ……ああっ……でも……うぁぁ……」
 心を奪うシルフの責めはアークのツボを的確に突いていた。妖しい色香に身を包んだ幻想の美少女が、折れそうなほどの華奢な肢体をすりつけながら耳元で甘い囁きを送り込んでくるのだ。
 まともに女性と会話したことのないアークにとっては、この精神攻撃に抵抗することはできない。一片もシルフの言葉を疑うことなく聞き入れ、情熱的な瞳を見続けて魅了され、さらなる深みへとずぶずぶ引きずりこまれていくのである。
「あはっ♪ ほらほらぁ♪ もうお兄ちゃんは私の虜でしょ? ねぇ言ってぇ……シルフ様大好きってぇ……。一生の忠誠を誓ってぇ……。ほらほら……」
「ああっ……。は、はい……僕はシルフ様の――」
 膝をつき目をうつろにさせる若き戦士。邪悪な妖精の、傀儡人形へと堕ちてしまうのも時間の問題のはずだった。
 だが甘い幻惑空間を切り裂く闖入者が、九割精神を支配されかけたアークの危機を救った。
「ひやっ! 何これ? ナイフ……? やっ、いやぁん……」
 シルフが大げさな動作で飛びのいた。
 数メートル遠方から放たれた小型のナイフ。アークの頼りになる仲間の一人、口が悪いがナイフの腕前は抜群の盗賊ジェスがシルフめがけて攻撃を開始したのだった。
「オレのナイフからは逃げられないぜ。早くあきらめな」
 ジェスが冷たく言い放つ。
 次々と投げられるナイフは的確で、何の防御手段も持たない妖精を確実に追い詰めていった。羽を貫き太ももを傷つけワンピースの生地を無残にも切り裂いた。
 嗚咽のような泣き声が一瞬で場を染める。もはや命を奪われるのも確定事項。血が滲みボロボロになった素肌が酷く痛々しい。
 だがまだ彼女はあきらめていなかった。先ほど『ゆうわく』でほとんど篭絡したも同然の青年を利用しようと考えた。
 体に打ち込まれた無機質な金属の痛みを振り切り、必死の思いでアークへ向けて最後のお願いを試みた。
「お兄……ちゃぁ……ん……。私……を……まも…………って……」
 か細く、今にも消え入りそうな声だった。しかしそれは、意図したしないにもかかわらず、アークの純情な心を面白いほど揺さぶってしまった。
「おっ、僕の可愛いシルフを……、な、なんで……あっ。うっ、うわ……許さない……絶対に……ああっ、うぉおおお――――」
 怒りのエネルギーが頂点に達し殺意へと変貌した。『ゆうわく』の効果は奇しくも使用者の悲劇が引き金となり、絶大な効果をもたらすはずだった。そう、もたらすはずだったのが――。
「神の恩寵よ……。迷いを解き払う神聖なる力を……! キュアル!」
 しんと静謐に近い静寂の声。直後、アークの周りの地面に白の魔方陣が展開され、交錯する光片と共に闇に堕ちかけた戦士の心を浄化をしていく。
 彼の名前はアムト。神に忠誠を誓い聖なる魔法を使うことを許されたプリーストの一員だ。
 常に穏やかな笑みを口元にたたえ、冷静沈着な判断でPTを最善の状況へと導く。
「あっ……あれ? 僕?」
 アムトの使ったキュアルにより、精神の均衡を取り戻したアークが頭をかきながらつぶやいた。
「もう終わったぜ。妖精のいたずらも困ったもんだ」
 ジェスの足元。モンスターの亡骸が静かに横たわっていた。
 なぜか見つめると涙が出た。アークは感じやすかった。正気を奪われてたとはいえ、一度傾きかけた情は振りほどきがたい。
 むしろ妙な気持ちになっていた。ぽんと投げ出されたむき出しの太もも。鮮血に染まって形は醜く崩れているのに。何か訴えかけるかのように、生を失いずっと細くなった肢体に再び心を絆されようとして――。
「アーク。大丈夫ですか?」
 肩に手を置かれる。不思議と暖かみが戻ってくる。アムトがにこにこと笑うと急に現実感が急接近した。
「オレたちの最終目的は、打倒ドルマゲータ。そうだろ?」
 ジェスが言った。そうだった、とアークは思った。 
 自分には仲間がいる――。かけがえのない仲間。邪悪な誘惑になんて構っていられない。きっと魔王を倒すまで、なんびたりとも動かない頑強な心を胸に抱き続けて――。





「いや、ひどい茶番だった」
 一戦闘終えたジェスの一声はそれだった。
「まぁまぁ。私は楽しかったですよ。ジェス」
 とアムト。
「やばかった。ドキドキした。意外にもこんなにシリアスになるなんて……。やっぱり『ゆうわく』は最高だ……」
 含み笑いをアークはかみ殺した。彼は大の誘惑好きだった。魅了スキルを使う魔物が大好きだった。女の子をモンスターを見れば必ず色仕掛けを仕掛けてくることをいつも望んでいた。
 ただし戦闘の安全も常に望んでいた。誘惑攻撃による高揚感と、PTの維持が同居する方法も常時考えていた。
 そのジレンマは前の戦闘で大体消化されていた。
 答えは確実に安全な状況で敵に誘惑をかけてもらうこと。敵も一体だけで弱いが『ゆうわく』だけはきっちり使ってくる。そして魅了されたとしても即座に敵を倒してくれる仲間、あっち側へと振りきれた感情を正常に戻す治癒魔法の使い手。
 テクニカルな盗賊ジェスと、僧侶魔法に卓越したアムトがサポートしてくれたおかげで、アークのやんごとならぬ願望は達成されたのである。
 敵の仕掛けてくる誘惑攻撃。心を魅了されるまでの過程。その天国までの階段一歩一歩がアークの求めるところだった。
 彼が冒険者として仲間を集めるべく、ダルイールの酒場をぶらりと訪れたのもこんな邪な理由からである。
 自分の卑小な満たすためだけのPT。まず集まるはずはないと思ったが、心優しき友は偶然にも現れたのだった。
 初めに仲間になったのはジェス。
 銀髪でエルフ、耳が鋭くとがり、首には赤いマフラーをくるんでいる。ナイフの達人でどんな獲物も素早い連続攻撃でしとめてしまう。盗賊稼業にも精通していて盗みや鍵開けにも非常に明るい。
 続いてアムト。
 先祖代々からの聖職者の血を引いており、治癒魔法にかけては非常に明るい。清潔感のある好青年で、すらりと体にフィットするローブを纏いながら、常に口元には涼しげな笑みが浮かんでいる。
「ていうーかさ。風俗いこうぜ風俗。なっアーク。さっさと童貞捨てちまえよ。なんなら俺がいい娘紹介してやるからさ。そしたらあんな誘惑攻撃なんか……」
 ジェスが茶化しながらニヤニヤ言った。
「ちっ、違う! ジェスは全然わかってない。僕は『ゆうわく』されるのが好きなんだ……。決してただやりたいわけじゃない……」
「そんなこと言ってるから、いつまでもお前はボーヤなんだよ。いいから一回はめてみろって。世界が変わるから」
「嫌だー。僕はそんなことはしたくないんだー! 第一女の子って怖いじゃないかー! うわー! うわぁー!」
「男のくせにヒステリーか? ほらどうどう」
「まぁまぁ二人とも落ち着いてください。私はアークのいう事もとてもよくわかります。私も一生童貞であることを強制された身……。穢れなき無垢の処女としての神秘性を守ること。その純粋なる貞操概念を貫くことは、とても大事なことだと私は思います」
「アムト。馬鹿かお前は。童貞こじらせるとろくなことがないぞ。現にこいつは変な性癖に目覚めてしまっているからな。それは、いかん。人間として。だから俺が矯正してやる。なっアーク?」
「やっ、やめろー! 離せジェスー!」
「こらこら。お止めなさい醜い争いは……」
 三人が言い合いになり絡み合う。ギャーギャーといがみ合う様子は、まるで動物の子供が喧嘩する風であった。
 とその仲のよいサークルからぽつりと隔離されるように、最後の仲間は存在していたのである。仲間は四人。三人ではなく最初から四人パーティーだった。
「くうぅ……。もう少しじゃ。もう少しでワシの大火炎魔法が炸裂する……くぅぅ……」
 著しく老齢の――ぼさぼさの頬髯を誇らしげにたたえた彼、自称大魔法使いのザリムが必死で魔法詠唱の準備をしていた。
「おい! 何やってんだよ爺さん! もう戦闘はとっくに終わってんだよ。つったくつかえねーな……。いつも言ってるだろ? 初級魔法のギラルぐらい数秒で使えって!」
 ジェスが大声をあげながらこづく。
 ザリムはその剣幕に一瞬臆したように見えたが、すぐにとりなして反撃した。
「馬鹿者! ギラルなんかではない。ワシはギラドーマのために、一生懸命魂を刻み汗を流し力を溜めておったのだ。後数十秒もあれば……ここは一面敵もろとも焼け野原のはずじゃ……ぐははは……」
「ばーか。あんな雑魚にギラドーマなんかいらねーんだよ。さっさとギラル一発で倒せって。そうすりゃあのお子様勇者が変な気起こす暇もないからな……」
「ちっ。なんじゃなんじゃ……これだから若いものは……。ワシを何だと思ってるのじゃ……ぶつぶつ……」
「まぁまぁザリムさん。ほら、ジェスも言いすぎですよ」
 二人の間にアムトが割って入ったが、事態は非常に険悪であった。
 実際最後の四人目はかなり適当な理由で決められた。勇者盗賊僧侶とくれば――次は魔法使い。そこで目に付いたのが、このひねくれ魔法使いのザリムである。ぐだぐだと酒場で酒を飲みながら管をまいているのをアークが仲間にと呼びかけた。
 他の魔法使いもいたが、全て女の子だったから。そんな理由で彼は消去法的に選ばれたのである。
「あーあーあー。もうワシはお前らのおままごとには付き合ってられんわ。こんなパーティでは、ワシの真価は発揮できん……。何が悲しくて……ぶつぶつ……」
「おいなんだ爺さん。言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「む……。それなら言ってやろうではないかこのウスラボケ盗賊。貴様らに言いたいことは山ほどあるが……。そこのクソ坊主、お前は――なっとらん。わかってない。『ゆうわく』をわかってない。お前のやっているのは浅瀬でぴちゃぴちゃと水をはじく少女のおはじきのようなものだ」
「え? 僕ですか? ザリムのお爺さん?」
 急に話を向けられてアークが目を丸くする。
「そうじゃ。ふむ……ちょいと昔の話をしようか。あれはもう何十年も前のことじゃろうか……」
 深く重々しく、魔道の老人の口から昔話が語られ始めた――。

「ワシも昔は血気盛んな若者じゃった……。今よりもずっと英気に優れ、並の魔法なら指先一つで繰り出せるほどの魔法使いじゃった。打倒ドルマゲータ。先代の国王の命にワシも意気揚々と立ち上がった。仲間を募り、冒険をし人を救い、着々とドルマゲータの待つ闇の大陸へと歩みを進めていた」
「あれは――ドルマゲータ四天王の一人で紅一点、黒鞭のラビアの塔に勇んで侵入した時のこと――。ワシのパーティーは強かった。それは強かった。だがそれが驕りだったのかもしれない……」
「最上階でワシ達はラビアと対峙した。いや、ラビア様にやっと出会えた――。あの時の感動をワシは一生忘れない。敵であろうはずの女幹部に、あろうことか並々ならぬ劣情を感じてしまったのだ……」
「際どいボンデージ姿に魅入られた。黒光りする鞭がぴしりと振るわれる度、ワシの心は激しく狂わされた。もちろん、それがラビア様の魅了術ではあったが……。いやそれ以上にワシは見透かされていたのだ……」
「ワシは魔法の詠唱が遅かった。そのせいでよく怒られた。容赦ない暴言を吐かれこつがれ人間性を全否定された。強いもの同士であったが――やはり他人同士だった。それで、ワシはストレスが溜まっていた……知らず知らずの内に、ワシの滑らかな陶器に注がれた煮えくり返る湯はこぼれ落ちそうだった」
「その時もワシはネオメギデオン――超究極核魔法をチャージしていた。仲間が前線で敵を食いとめている間、ワシの魔法で一気に一網打尽にする作戦じゃった。その作戦自体は正しい。しかし――」
「ワシの心はもう限界の瀬戸際じゃった。早くしろ、なにやってる……とワシを非難する仲間の声が聞こえた。いや、もう仲間ではなかった。ラビア様の瞳、ラビア様の唇、ラビア様のおみ足、乳房、胴体手足全てがワシを虜にしていた」
「ワシは完全に魅了されていた。遠くからでもラビア様の誘惑は抜群にワシを甘く取り込んでいた。もちろんワシも抗った。クソのような絆だが、一応はこれまで戦ってきた仲間だからな」
「ワシは最後まで本当に抵抗した。囁きかける美貌の悪魔に心を奪われないように。が――ラビア様の魅力は絶大だった。あの官能的な唇と舌が引き金となって、ワシは昔の仲間の背中めがけてネオメギデオンを――」
「仲間は一瞬で消し炭になった。文字通りカスになってゴミになった。ワシは後悔した。なんてことをしてしまったのだろう――と」
「だがラビア様は即座にワシを救ってくれた。可愛い子……と頬を撫で回されて首輪をつけられて……。はは……ふふふ。これが天上の至福じゃろうか……。ワシはやっと辿り付けた。これが、これが……」
「じゃが天国は長くは続かなかった。どこかの馬鹿が、ラビア様を討伐してしまったのだ……。ワシは泣いた。毎日むせび泣きながら酒を飲み、各地を放浪し、この世を憂いを嘆きながら――今こうして……」


 ザリムの話に区切りがついた。肩が細かく震えていた。
「……爺さん。昔話は結構だが――」
「うるさい。貴様らにワシの何がわかるというのだ。何が『ゆうわく』だ……。ただの小便くさいメス妖精といちゃいちゃしているだけ……そんなのは子供じみた児戯にしかすぎん。そう……もっと支配されるには犠牲がつきものじゃ……。ああラビア様……仲間の命と引きかえに……ワシはあなた様を……へへへ。どうしていなくなってしまったのじゃ……ワシは今でもあの妖艶な肢体を思い出すというのに……。いや、ラビア様は本当は生きていて……今もどこかで……ふふ……うははは……」
「ザ、ザリムさん? 何言ってるの? ごめんなさい。僕よくわからなくて……」
 話をいまいち消化しきれないアークが言った。
「アークは聞かなくていいぜ。この爺さんはとんだ異常者だな。俺たちとは一緒にいけないぜ」
「ふぅむ。残念ですがそうなりますか。ああ人間の絆の儚きこと……。どうして神は私達をおつくりなさったのか……」
 目をつぶって空に十字を切るアムト。
 ザリムはぶつぶつとうわごとのように何かをつぶやいていた。すっかり禿げ上がった頭をかきむしり、血走った目で三人のもとへとにじり寄ってきた。
「お、おいお前たち! そうじゃ、今からラビア様を探す旅に出かけようではないか。あのお方はきっと死んでおらん……。ドルマゲータ四天王……簡単にやられるはずがない。そう、ワシのことを、今でもきっと待っていて――」
 その姿はもはやゾンビのようだった。やつれた腕、ふらふらとおぼつかない足元。死にかけの醜い老人が、最後の力を絞る一仕事。
「おいおい。何か変なことになっちまったじゃねーか。全部お前のせいだぞ、アーク」
「ええっ? 僕のせい? 何で?」
「とにかく面倒なことになりましたね。どうやって丁重にお断り申し上げたらいいか……」
 腕を組んで悩む三人。
 とその時、場の趨勢を大きく左右させる第三者が現れた。
「はーい何してるのお兄さん達? このボクとあそぼーよっ♪ ふふんっ♪」
 それは男の娘――見た目はまるで少年だが敵である。一部の男性にクリティカルヒットを与える、ほとんど女の子のような可愛い男の子である。
 攻撃能力はほとんどないが、小ぶりのお尻をふりふりしながら、その白く透き通る肌と甘い美貌で魅了しようとしてくる。
「おっ。何だこんな時に……」
「うわぁ。あれ? あの子男の子? でももしかして、『ゆうわく』してくるのかな?」
「はぁはぁひひぃ! もう何でもいい! 早くしろ。ワシはラビア様を探しにいくんだ……」
 三者三様。意志疎通の乱れ。事態は収拾不可能に見えたが。
「ん! これはいいことを思いついた。やはり俺は天才だ」
「急に何ですかジェス?」
「いいからお前たち耳をかせ! 早く」
「う、うん……」
「ジェスがそこまで言うのなら……」
 三人寄れば文殊の知恵ではないが、男三人が顔を突き合わせてごにょごにょしていた。
「ねーねーねー。ボクぅ~敵なんだけどぉ~。早く相手してよぉ……♪ ねっお兄ちゃん♪ ボク男だけどぉ……結構エロいんだよぉ……んっ♪」
 痺れを切らした美少年。舌をぺろっと出して目を細める。くりっとした腰を妖しく揺らしながら、巨乳アイドルのような仕草で手のひらを下腹部からゆっくりと胸元までさすり上げる。そのまま薄い胸板をもみしだき、白いシャツのボタンをぷちぷちとはだけながら淡い嗚咽を漏らした。
「あんっ♪ お兄ちゃん……ボク男なのにおっぱい揉んで感じてるの……んっんっ……」
 辺りが魅惑的な嬌声に包まれる。気を抜けば一瞬で魅了されかねない薔薇の蔦。
 男の娘、というこの世で最も美しい第三の性を想起させるような、甘い甘い誘惑が三人に襲い掛かった。
「……わかったな」
「う、うーん? だ、大丈夫かも。たぶん」
「ふーん。中々いい作戦ですね」
 この性的誘惑に、三人はほぼ無視を決め込んでいたがやっと議論は終了したようだった。
「お、おいおい。何をそんな小僧に手間取ってあるのじゃ。ジェス! 早く目障りだからナイフで切り裂いて……」
 指図をするザリム。しかし、彼の意思は無情にもかき消えた。
「それはできないな。爺さん」
「なっ、何を言っている?」
「つまりは……こういうことだ」
「ぬぁっ?」
 ジェスはナイフを構えた。男の娘ではない、かつての仲間――ザリムに向かって。
「ば、馬鹿な。正気かジェス? お、お、男……だぞ? お、お、お前……。ワ、ワシを馬鹿にしているのか?」
 一息、銀髪の盗賊エルフはため息をついた。切れ長の軽薄そうな瞳がうっすらと敵意に満ちていた。
「いや、俺としたことがドジを踏んだ。これほどまで魅力的だとは――。太ももを見て目を見た時にはもう遅かった。その切ない可憐さにやられていたよ……。この背徳感、くせになりそうだ」
 歯の浮くような見え透いた演技だったが、半ば狂気に片足を一歩突っ込んだ状態のザリムにとっては、ほぼリアルの状況と信じるしかなかった。 
「ぼ、僕もそうです……。男の娘、同じオチンチンがあるのに、こんなに可愛らしい……だから。ああ誰かに魅了されるって……ぽかぽかいい気分……」
 アークも微妙な表情でもじもじしながら同調した。心なしか顔が赤らんでいた。
「なっ、くっ。お、おいアムト! さっさと二人にキュアルをかけろ! おい! 聞いてるのかアムト!」
 声を荒げ、おろおろとザリムは右往左往した。まさか突如出現した男の娘モンスターに、二人も意のままに操られるとは思ってもみなかったからだ。
 だが事態はさらに深刻だった。自らが招いた結果の惨事ではあったが、ザリムは今にも崩れ落ちそうな薄氷の上に片足立ちしていた。
「え? 何でしょうか?」
「さ、さささささっきからキュアルだって言ってるじゃろう! はは早くしろ!」
「ああ……そんなことでしたか。それでは今すぐに……ん……」
「おお、よしよし。ふぅこれで助かったぞ。何が、この馬鹿者達が……ぶつぶつ……」
 ほっと胸で撫で下ろし額の汗を拭くザリム。しかし頼みのつなであったアムトが次にとった行動は、老人の心を真に驚愕させるものであった。
「男の娘様……忠誠のキスをいたします。どうかそのすべすべの手のひらをお貸しください」
「あれっ? ボクの力ってこんなに強かったっけ? まぁ……いいや! はぁい♪ お兄ちゃんおいでぇ……ここにチューしたらぁ……完全にボクのものになっちゃうからねー♪」
「はい、仰せのままに……」
「な、おい……まて、おい!」
 ザリムの叫びもむなしく、空ろな目をしたアムトが男の娘の手へ軽く口付けをした。目をつぶり祈りを捧げるようにかしづく。それはいつも彼が神に対して行う神聖な行為だった。
「すいませんザリム。見ての通りです。私も魅了されてしまいました……。おお神よお許しください……。白磁のような美少年の柔肌が……魔がさしたのです……。私も必死で抵抗したのですが……」
 アムトはゆっくりと立ち上がり、自分に心酔するように言った。
「んな、そんな、馬鹿……な?」
「っと! そういうことだ爺さん。俺たち三人全員、男の娘の『ゆうわく』に身も心も焼かれちまったわけだ。まぁ悪く思うな……」
「くっ! ぐぉ……ワ、ワシはまだ終わるわけにはいかん。お前らのような若造に……このまま……うぉぉ――」
 完全に追い詰められたザリム、とった行動は――逃走だった。少しでも可能性の多い方にかける。誇りも何もかもを捨てて、背を向け脱兎のごとく逃げ出そうとした――。
「待て! 動くな!」
「ひぃっ!」
 刃渡りのぎらつく銀色のナイフが、一瞬でザリムのしわがれた喉元にピタリと当てられていた。少しでも動けば、躊躇なく首を落すであろう未来が容易に想像された。
「こっ、やっ、やっ」
「……二度と俺たちの前に現れるな。わかったな?」
「ぅ……わかった」
「よし……」
 ナイフは安全に取り除かれた。
 腰を抜かしつつ足を引きずりながら、かつての仲間だったザリムは遥か遠くへと離れていった。
「お、お、お前たち覚えておけよ。ワシは、ワシは絶対に許さん……。いつか絶対に復讐を――」
 負け犬の遠吠えか復讐者の呪いか。その一言を最後に、老人の姿は平原の景色に溶けて消えてしまった。
「……ふぅ」
 ジェスが一仕事終えて一息つく。
「ザリムのお爺さん何かかわいそう……」
「かわいそうなもんか。ああでもしないと、ひねくれた老いぼれジジイは何をしでかすかわからん」
「あのーねぇねぇ……」
「何だ?」
 男の娘がニコニコ顔で声をかけた。
「どうしてあのお爺さん逃がしちゃったの? ボクって血を見るのもちょっと好きだからぁ……もっといたぶってぇ……ボクのために頑張ってくれたらぁ……うふふ♪ んっ、あっそうだ! 今からでもお兄ちゃん達でいけない同士討ちとかぁ……ボクそういうの大好きだからぁ……」
「……」
 無言でニ、三度鋭利なナイフが旋回する。
 直後、はらはらと男の娘の服が見事に解体されていた。真っ白のブリーフだけを残し、生まれたままの姿を女装美少年に強制させた。
「いやぁん♪ いきなり何するのお兄ちゃん……」
「何で胸隠してんだよお前は」
「だ、だってボクおっぱいも可愛いし……。ん……その、お兄ちゃん……お兄ちゃんにこんな趣味があるなんて……。でも大丈夫だよ……ボク無理矢理されるのも好きだから……ん……」
「死ね。今すぐ消えろ」
「えっ、あっ、うわ、いやぁぁぁ~ん……」
 ジェスがナイフを一直線に突きつける。明らかな殺意。たまらず男の娘は涙目で内股走りで逃げ去った。
 これにて全ての脅威は去った。


「ふぅ。ようやく全部片付いたぜ」
「お疲れ様ですジェス」
「ジェス! かっこよかったよ!」
「おう……」
 パーティーの間に一時の安堵が灯る。
 気のおけない語らい。その中でも年若い少年アークは目を輝かせていた。
「……『ゆうわく』ってすごい。人の心をあんなに操れて……ううん、ザリムのお爺さんのことはちょっと酷いと思ったけど……。まだまだ色んな出会いが僕を待っていて……さっきの男の娘だってお肌真っ白ですべすべで可愛かったし……」
「お前何でその結論に達するんだよ。と、それより――アムト、一つ聞きたいことがあるんだが……」
「何ですか?」
 横目でジェスがアムトを見つめる。極めて訝しげな視線で。
「何であのメスガキにキスしたんだ?」
「あ、それは……ほら。その方が魅了に深くかかってしまったと……ザリムさんを騙せると……」
「……そうか」
「そうですそうです! 特に深い意味はありません。ほら、私って演技とか頑張っちゃう方ですから。役に没頭しちゃうんですよ、ふふふ……」
 妙な汗をかきながらアムトは笑った。それを見てアークがきょとんとする。
「どうしたの? アムト? 何か変だよ?」
「いえ……」
「アーク! 今日からケツの穴に注意しとけよ!」
「ええっ? 何でジェス? 僕の……お尻の穴? ええっ?」
 少年は条件反射的に後ろに手を回した。意味もわからずに、年上二人の様子を伺う様子が、すれてない愛おしさでくるくると満ち溢れていた。
「ねぇアムト? 僕のお尻……何かおかしいのかな? よかったら見てくれる?」
「うわ、違うんです。私はそんなつもりではありません。聖職者として、あなたを正面から――」
「アムト……。よくわからないけど……僕のお尻……お願いします……」
「ひえっ。私は罪を犯せません……。ささようなら……」
「あっ、待って待ってよぉ~」
 少年アークのどこまでも肥大する好奇心。それは天高く舞い上がるペガサスのごとく気高く麗しい。
 彼の冒険はまだ始まったばかりである。これからどんな出会いや試練があるのか――。神のみぞ知る未開のフロンティアである。
 今、少年戦士アークは駆け出した。ズボンを膝に引っ掛け、だらしなく半分ほど、白いお尻を優しい日の光に晒しながら――。






  1. 2013/10/08(火) 22:44:20|
  2. SS
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幻想世界マインディア 真END(?)

とりあえずのこれで完結と。



マインディアのネタばれになりますので
未プレイの人は云々。


次SSはリミットトランス∞シリーズになると思います。





 幻想世界マインディア 真END(?)


キーアイテム 血塗られた新聞の切れ端1~3




「馬鹿な、この私が……だが……マインディアもろとも終わりだ……ギャアアアア――」
 僕の渾身のリアリティをこめた一撃が決まる。
 マインディアを絶望により支配しようとしたマインドサキュバス――キルエは絶叫のような断末魔を上げ、黒い霧のごとくねじれ渦巻き次元の歪へと消えていった。
 とても苦しい戦いだった。ディア様の命を受け、なぜか勇者としてこの世界を救うことになった僕。いつもどんくさくて怠け者で頭も悪くて全てにおいて大体ネガティブな勇者カケルは、ついにこの長い旅路の終着点を迎えたのだった。
 様々な誘惑に次ぐ誘惑。精神を苛む凶悪なマインドサキュバスの責め苦。
 何度もくじけそうになったけれど――ディア様の加護を受けた僕には不思議な補正が働いているように思えた。僕はやはり勇者だったのかもしれない。
「はぁ……はぁ……」
 大げさに肩で息をつく。キルエは消え去った。これで世界は救われる――。
「くっ……」
「あっ! ディア様よかった……」
 僕を導いてくれた女神様。しかしその表情は暗かった。眉をひそめて本当に苦しそうだ。
「カケルよ……よくやりましたね。けれど、もう私はもう終わりです。あの者がマインディアにもたらした絶望は……私では修復できないくらい……」
「ええっ? そんなディア様……」
 面食らう僕。実際、マインディアは崩壊の一途を辿っていた。ぽろぽろと剥がれ落ちていくリアリティ。色失い音を失い空間を失う……絶望という感情が世界を塗りつぶし、今にも足元から奈落の暗闇へと落ちていく寸前だった。
「そんなのってないですよディア様。僕は何のためにここまで……うっうっ……」
「いえ、あなたはよくやりました。泣かないでください……」
 どうしてなのだろう? 腑に落ちない数々の疑問。彼女達の目的は一体何なのだろう?
 そして……いや僕の存在も。マインディアという世界も。
 そう、今感じる奇妙な違和感は、この新聞の切れ端を見つけてから膨大に膨れ上がった。
 血で赤く濡れて所々見えないが、一人の女性が何人もの人を殺してしまったという内容だ。
 これは精神世界であるマインディアにおいてはおかしすぎる。なぜ、こんなものが存在しているのだろう?
 そして僕の心の天秤は揺れ動いている。左右にぐらぐらと振れ、決して一点に止まることはない。

 引っかかる疑念と倒錯――。
 キルエ――彼女を見たとき、僕はその顔を知っていたような気がした。

 絶対に、ありえないはずなのに。幻想世界マインディアで、僕はぐうたら平和に過ごしてきたはずなのに。
「さぁ、カケルやカケル。この世界はもう終わりですが……あなただけは……」
「いや……違う! 僕は知りたいんです。どうか教えてください。この新聞の切れ端……。そして僕は彼女を知っていたんです。いや。キルエだけじゃない……他のマインドサキュバスだって、どこか懐かしい感じ……かすかに……」
 僕は感情にまかせて言ってみた。このまま喉元に何かが引っかかったような心地では、消えても消えきれない。
「……?」
 きょとんと不思議そうにするディア様。 
 数秒、無表情が続いたかと思うと、急に目元に指を当てながら笑い出した。
「ふふふ……ふっふふふ……」
「デ、ディア様?」
「あーははは、うっふふふふふ……。さすがは勇者ですね。私の与えたヒントに気づくとは……だいぶ難易度高めにしたつもりなのですが……。ぐうたらと言っても、案外根気があるのですね。ふふふ……」
「ど、どういうことですか?」
 急な展開に頭が追いつかない。そして――世界を覆う絶望がすっと消え去っていた。ディア様も笑顔でぴんぴんしている。これは一体――?
「色々思うことがあるでしょうが……。簡潔に言いますねカケル。あなたは――この世界の人間ではありません」
「は、はぁ」
「肉体を持つ人間です。私があなたをマインディアに呼び寄せ、記憶をなくしてから世界を救う勇者としてしたてあげました……」
「そ、そんな……」
 なんてことだろう。僕はこの世界の人間ではなかった。あの記憶、アディアの家でのんびり過ごしていたあの時間、僕はずっと騙されていたのだろうか?
「マインディアは私の力で成り立っています。感情を媒介にし、リアリティに変えて世界を創造する――。私の世界、何でもできる。私のための……」
 ディア様が語り始めた。うっとりと自分自身に心酔するような恍惚な表情で――それは今まで僕に見せたことの、個人の欲望にすっかり染まりきった下卑た顔だった。
「人間が織り成す感情は、非常に愛おしいものです。ほんの少しスイッチを操作するだけで、思い通りに操ることができます。そして、私は外の世界の存在を知ってしまったんです。肉体を持つ数多の感情製造機の存在を……」
「……」
「私の箱庭で育った人間は、何でも従順に思い通りになりますが、予想つきすぎて飽きてしまうのです。だから、私は外から人間を連れてくることにしたんです……」
 滔々とディア様が話していく。僕はそれを不思議な気分で聞いていた。
「そうです……マインドサキュバスは――『外』から来たんですよ。ふふっ。ほらおいでなさい!」
 指をぱちんと鳴らす。誰かの面影――長い髪の毛を振り乱し、ぎょろつき血走った目をして、右手は今まさに人を殺してきたような血をべったりと粘りついた包丁を持った女性がぺたんと座りこんでいた。
 僕は彼女をよく知っている。だってさっきまで――。
「あっ! この人は……」
「そうです。彼女はキルエです。切理絵さん、本名織田切理絵さんといいます。れっきとした肉体を持った元人間ですよ」
「ま、まさか。僕が戦っていたのが……人間だなんて」
「ふふふっ。これからはちょっと生臭い話になりますがいいですか? 私の可愛いカケル?」
「え、ええ。僕は本当のことを知りたいですから……」
 それはとても望むことだった。ここまできたら、何でもいいから知りたいと思った。
「そうですか。では話ましょう。彼女は肉体を持つ世界で類まれなる殺人鬼でした。その新聞記事は彼女のことを書いたものです」
「ああ……そうか」
 新聞の切れ端。前代未聞の殺人事件。そう考えるとつながる気がする。妙なデジャビュ感も、これほどまで有名な殺人鬼なら僕が知っていたのもおかしくはない。
「彼女はすごいですよ。もう殺して殺して殺しまくりました。女性ながらにして手口も鮮やか。しかも中々捕まらず捜査の網を幾度も潜りぬけました。手始めに幼児を数人殺し、自分を否定ばかりしている誇大妄想女といつも笑っている超ハッピーなお姉さんも殺し、優しい看護婦さんも有名舞台女優もふくよかな保母さんも他人の彼氏を寝取り大好き女もセクシーでドSなSM嬢も殺し、自分では何もしない怠惰の少女も天真爛漫なボクっ娘少女も心が読めるような占い師も……他にもとにかく殺しまくりました」
「……」
「彼女は絶望を与えるのが大好きでした。時間があれば一思いに殺さずじわじわいたぶりました。絶望が、絶望が好きなんです。はぁはぁ……他人の感情をここまで揺さぶり破壊し弄ぶ姿――この私でもぞくぞくしてしまいました!」
「……」
 僕は沈黙していた。一体、この女神様は何だったのだろうかと考えていた。押さえつけていた感情を、今淫らな愉悦に浸りきった顔で――へらへらと僕の前で熱く語っている人は。
「しかし、悪事というのは因果応報というもので、必ず自分に返ってきます。結局些細なミスがもとで、かわいそうに切理絵さんは捕まってしまったというわけです。ああ無念だったでしょうね……もっと人を絶望させたかったでしょうね……。独房では毎日苦しく苦しく……死刑の日まで悶え狂いながら……本当にかわいそう……ねぇ切理絵さん?」
「あ、ああ! そう! 私はもっと殺したかった! 絶望を与えたかった。それが私の役目だと思ったから……いつかきっと、白い天使の翼を広げて……だから、だからぁ――!」
 ぼりぼりと頭をかきむしりながら、黒いワンピースの女性はしわがれた声で叫んだ。顔は般若のように険しく歪みきっていた。
「うふふ♪ この振りきれた感情――いつも見ても素晴らしい……。このまま貴重な彼女を失ってしまうなんて……許されるはずがありません。ただ肉体を破壊したというだけで、死刑になって愚かな輪廻の潮流に吸い込まれて消えてしまうだなんて――」
「……」
「だから私が優しく拾ってあげました。白い糸で細かく編まれたふわふわのハンモックで……。ああ私はとってもいいことをしました。さすがディア様……崇高なるマインディアの女神様……それが私……ふふ……」
 女神は喜悦の表情だった。さすがに僕も、もう聞いていられなくなった。今までの話を総括すると、稀代の殺人鬼をマインディアに呼び寄せて僕と戦わせて、何の意味もないことを――。
「くっ! お、おかしいぞ! 人間を何だと思って……」
「あらまだ話は終わっていませんよ? 最後まで聞きなさいなカケル……」
「……」
 にんまりと甘く僕をくるむような笑顔だった。ただし口角は醜く釣りあがっていた。
「絶望で世界を支配せんとするマインドサキュバスの首領――。悪のカリスマである彼女には、まさにうってつけの役でした。もちろん人間界での記憶は全て消してあります。私のゲームには余計な要素は含まない方がいいですから」
「……」
「そして、私はここでも頭がいいんです。切理絵さんに殺された人間……心半ばにして……まだ色々やりたいこともあったでしょうね……。ああだから、私はその人達も救ってあげたのです。結果、強力なマインドサキュバスとして勇者の前に立ちはだかってくれました。ふふふ……」
「な……」
 まさか、本当にそんなことってあるのだろうか。マインドサキュバスは全員狂った殺人鬼に殺された元人間だなんて。自分を殺した相手に、死んだ後も支配されているなんて。
「あ、あなたは悪魔です……」
「ん? 何が悪魔なんですか? この私に意見する気ですか? 単なる勇者という駒――変態坊やで何からもすぐ逃げ出しちゃうカケル君♪」
「う……」
「別に記憶は消しているから問題ありません。むしろ私が優しいんです素晴らしいんです。やりたいことやれなかったこと――全部マインディアで叶えられるんですから……。ふふふっ、そうですよ。あなたが負ければよかったんです。彼女達の願望を叶えてやればよかったんです……」
 女神はさらに調子よく立て板に水だった。僕はそれを黙って聞くしかなかった。
「誘惑に負けて気持ちよく虜になって射精してあげればよかったんです。否定されて狂って絶望して消えてあげればよかったんです。クズで童貞で彼女もいないあなたと願望が一致していたんです。リアリティを絞り取り、勇者を倒した暁には私が素敵なごほうびをあげる予定だったんです。私が考えたゲームで、マインドサキュバスと勇者が戦う素敵なゲームです。簡単に終わっては面白くないですから、ゴミでクズのあなたには強烈な勇者補正を与えてあげましたが。それでも心配でしたけどね、うふふ♪」
「……」
「そして――あなたは勇者として見事、私が創造した最強のマインドサキュバス――キルエの野望を打ち砕きました。カケル、あなたのリアリティが勝ったのですよ。私の予想を遥かに超えた……強靭なリアリティで……。本当に予想していませんでしたが……」
 もうどうでもよくなっていた。内容も頭によく入ってこない。
 ただ一つ、僕の中に巻き起こるのは、このにやけ顔で喋る女神の顔面に一撃を加えたいであろうことだ。
「しかも、あなたは私の仕掛けた微少なヒントに気づきました! 何と素晴らしい! マインドサキュバスの正体に迫る――極めて重大なヒントを……」
「……僕が知りたかったのはそんなことじゃない」
「あらそうなんですか? でもそんなことはもうどうでもいいんですよ。世界を救った勇者にはごほうびをあげましょう。素敵なごほうびですよ。本当ならば、あんまり私がでしゃばるのはよくないと思って、ささやかなプレゼントを贈るのですが……真実を知ったあなたなら……それはもう……」
「うるさいっ! い、いくらなんでも怒るぞっ!」
 いい加減、堪忍袋の尾が切れた。全く人の話を聞かずに自分に一人だけで悦に入っている。
 ある意味、マインディアで一番やっかいで凶悪なマインドサキュバスだと思った。
「……はぁ?」
「はぁじゃないです。もうお前は女神様なんかじゃない……ぼっ、僕を元の世界に返せっ! こんな世界はもう真っ平だ……。どうして僕がこんな目に合わなくちゃならないんだ……。もし、本当に僕が記憶なくしているのなら……肉体という現実の体を持っているのなら――」
 僕はそう言ってみた。マインドサキュバスなんかもうどうでもいい。僕は僕として僕の真実を知りたかった。
「……ふふ。私の駒のくせに生意気ですね。ここまで歯向かってくるとは予想外でした。ええカケル、あなたの頭の悪さに――。でも、あなたの働きに免じて非礼は許してあげましょう。ええ、あなたが肉体を持つ世界の人間というのは本当ですよ。ちゃんと今からでも戻れます。確実にディア様は嘘をつきませんから。ふふ」
「そっ、それなら」
 僕は握ったマインドソードに手をかける。キルエを倒したこの剣ならきっと――。とにかくこの女神の顔をぶったぎってやりたい。今この状況ならたぶん絶対実力行使も許されるだろう。
「はぁ……マインディアにいる以上、まだ私の駒なわけですが。これが人間というやつですか。ちょっとがっかりしましたね……」
「う、うるさいぞ! 僕はやるっていったらやるんだ!」
「ふふっ♪ わかりました相手をしてあげましょう。ただし、あなたには二つの選択があります。私を力で持って叩きのめすか――純粋に真実を知りたいか、二つに一つです」
「そっ、そんなの……」
 何が二択なのだろう。こんなの女神を倒して真実を知るしかないのに。そう、ゲームの創造者を倒して、新たなる世界へと勇者は飛び出す。そんな展開が僕を待っているはずなんだ。このくだらない絶望ゲームから、僕は抜けださなきゃならないんだ。
「決心は決まりましたか? さぁあなたのリアリティを見せてください……ディア様が受けとめてあげますよ……」
「くっ……」
 女神がおいでと白い両手を広げている。さっきまでふつふつと沸いていた怒りの感情がかき消えてしまいそうだ。
 どうする? 一体僕はどうすればいい?
 選択は……二つに一つだ。


 ※選択肢

 1 問答無用! クソ女神め覚悟しろ! 
 2 僕は真実を知りたい……





→2 僕は真実を知りたい……

「うっ、あぁ……」
「うふふ。どうしたのですか? あなたを弄んだ私を早くメタメタにしないのですか?」
 怒りの灯火がふっと消滅していく。洗い立ての白一面の毛布に、全身をくるまれているような心地がした。
 真実――真実って何だろう?
 僕はディア様の目を見据えた。そう誘導された。ニコニコと笑う優しい瞳に吸引された。
 心がリアリティが、僕の思考と本能を一点に集約させ服従の言葉を紡がせる。
「僕は……真実を……知りたい……です」
 言った瞬間、全身が未曾有の快楽に満たされる。絶望とも希望とも似つかぬ、超幻想的で崇高な何かに――。
「あら真実を知りたいのですか? さっきまで……私を倒そうとしていたと思いましたが……」
 音もなくふわりと接近、そして透き通るような白い胸元に抱え込まれる。
「あうぅ……ディア様ぁ……僕僕ぅ……」
「……悪い夢を見ていたのですよカケル。ディア様はいつでもあなたを見守っています……」
「うぁぁ……」
 心の片隅では、どこか違うと感じていた。この女神はさっきまで自分の悪事をこれみよがしに披露していたのだ。僕のことなんて本当にゲームの一要素に過ぎないと思っているはずなのに。それなのに――。
「ああっ。ディア様ぁ……暖かいよぉ……」
「うふふ……。これが真実ですよ、カケル……」
「はぅぅ……あぁぁぁ……♪」
「私が与える最上のリアリティで満たしてあげるのです……。そうすればあなたには肯定しかありません。もう希薄になることはないのです。マインディア中のリアリティをあなたに……ほら喜びなさいお泣きなさい……狂いなさい酔いしれなさい何もかも解放するのです……さぁ」
「あっ、あぁぁぁぁ――♪」
 感情の胎動と隆起が爆発歓喜する。様々な感情が融合し入り乱れて、一つの巨大な鍋に溶け込んだシチューのようにぐつぐつ沸騰している。
 僕はその鍋の中であっぷあっぷと泳いでいた。もうわけもなんだかわからない。悲しい気もするし嬉しい気もするし、エッチな気もするし絶望もするし嫉妬も眠いのも空腹もくやしいものなんかめちゃくちゃにあちこちで暴発噴火している気持ちも外から流れ注ぎ込んでいるし。
「あんんっ♪ これがぁ? 真実? 溶ける溶けるよぉ……感情のメルトダウン……ふわぁぁっ♪」
「ふふっ♪ そうですよ、これが真実です。気持ちいいでしょう? 安らぐでしょう?」
 僕はもはや発狂し幾千数多の感情に飲み込まれながら溺死した。
 白い糸が白鳥の機織のごとく、繊細に憂いと嘆きを乗せてしんとした石畳に静謐なよろめきを交えながら倒れ込んできた。
「はぃぃ……あひぁっぁぁ……♪」
「うふふ♪ だいぶ出来上がってきましたね。さ……そろそろここにも入れましょうか?」
「うぁ……」
 女神――が僕の真芯を握り引き寄せた。リアリティの勃起機関を、全ての母なる冷凍保存ケースに今抽入するべく。
「くっ、あっ……」
「もうわかっていますね? さぁリアリティを注ぎ込みなさい……」
 物理体重の女神位置から変動――みちみちと卑猥破裂音を奏でながら、肉壁愛撫を加重しつつ融和機能が着々と連結推移されていく。
「ああっ。固い……固いっていうより……」
 硬化凝縮。粒粒なる感情粉がつぶさに僕を導きながら援護する。
 開かれる女門の稀有な極卒問答記、しだいに粛々と風穴を倍化し、粘帯地域を蜜土に浸透吸着し回帰のらせんに当然帰結していく。
「は、入るよぉ……ディア様ぁ……ああぅあぁはぁ……」
「好きなだけリアリティを解き放つのです。あなたのマインディアがここにはあります……」
 目まぐるしく変貌する圧迫精度にのたうち回る。ディア様は慈愛しながら僕を祝福してくれた。この世にディア様と唯一無二に存在する多幸感と未曾有の極楽空間に感謝する。
 数乗算回にわたり自己射精した。もっと放出し捧げたい。単一の性的興奮を超越暴露した、多数視点要素集合に敬礼萎縮を打ち込みながら。
「んぁっ……へぇ……ひぁ……ぁ……」
 言語技術の崩壊と視認高度の鈍磨、振動反応による痴情も痛々しくこそげ落ちた。
 もはや何を持ってして自己をとらえるかも難しい。積極的俯瞰は清楚で美貌女神の一声へと閂をさすり続けた。
「うふっ♪ うふ……うふふふ……♪」
 変わらず依然として腰つきは扇動していた。
 無限なる悠久のマインディアに、我はただ一部分の設置として玩具となり続けた。
 永久に永久に、これが真相だと理解して――。



→1 問答無用! クソ女神め覚悟しろ!

「寄るな外道女神め! 僕は全力を持ってお前を倒すっ!」
 僕は感情を激昂させて女神に啖呵を切った。こうなってしまってはもはや後にはひけない
「おやおや……。創造主である私……神に逆らうということですか? とても頭に脳ミソがつまった生き物の考えとは思えませんが……。とんだ凡愚でしたか……」
「うるさいぞっ! とにかく僕はやるったらやるんだ……。僕の力で……運命を――切り開く!」
 いつもは怠惰すぎる僕だが、この時ばかりはかっこいいような気がした。このまま最悪な女神の言いなりになっていては、何も始まらないと思った。
「ふふっ♪ いいでしょう。それでこそ勇者です。定められた運命に異を唱えるもの――それは英雄か奴隷か、あなたの力で示してみせなさい」
「のっ、望むところっ!」
 剣を構える――。ついに幻想世界の決着の火蓋は切って落とされたのだ。
「あ、ちゃんとぎりぎりで勝てるように調整してあります。私は気がききますから……」
「なっ何を言ってるっ! いくぞっ!」
 僕はついに突貫した。


※ 女神ディアの攻撃

ディアは耳元で囁いてきた!
「悔い改めなさい……。本当はわかっているのでしょう?」
「膝枕ですか? それともおっぱいがいいのですか……?」
「あなたの役目は終わったのですよ? それでもまだ戦いますか?」
「カケルやカケル。私の可愛いカケル……」

ディアは白い谷間をゆさゆさと揺らしてきた!
まばゆく光る双乳に我を失ってしまいそう……。

ディアは慈愛の右手をそっとかざしてきた!
とろけるような幸福感が頬からふわりと広がっていく……。

ディアは救済の左手を差し伸べてきた!
立ち向かう意志の力が永遠の白に溶け込んでいく……。

ディアは澄んだ瞳でみつめてきた!
その純真さになぜか罪悪感が募る……。

ディアはローブの端をつまみふわりと持ち上げた!
チラチラ見え隠れする白い美脚に見蕩れてしまいそう……。

(一定ターン数経過で発動 即死技)
ディアはマインディア中のリアリティを集結させた!
究極ともいえる白の衝撃が精神細胞全てを駆逐消滅させる!



・負けた場合

「はぁはぁ……も、もう少しだ……」
 僕は必死で頑張った。これ以上ないぐらいの必死さで頑張った。
 めくるめく誘惑に耐え囁きに耐え洗脳に耐える。これまでマインドバトルで培ってきた経験は決して無駄ではない。
「ふふ……」
 悠然として口元に笑みを湛える邪教の女神。でも僕は知っている。白い像の歪みを如実に感じている。
 おそらくは最後の一撃――。それで僕はこの世界から脱出するんだ。
「えええぃ――」
 僕は剣先を女神に向けて、ありったけの波動が叩き込もうとする――。
 が、しかし。
「おや。時間切れですね……。残念ですが……」
「なっ、何を……う、うわぁぁぁああ――」
 それは数秒コンマ刹那の出来事。
 全身を突き抜ける無数のレーザーが、リアリティもろとも一面をなぎ払った。
 何が起こったのか。それを了解する前に僕の思考回路は消滅してしまった。
 

 一面の白。いや、白とは認識できない。ただし透明でもない。いや透明も認識できるわけではない。
 ただ一面ただっぴろい、何も存在しないというわずかな理のもとにこの平面は存在しているだけだ。
 上下右左、奥行きと上昇下降軸もやはり認知は至上高難度、時間の進みすら到達感知できない。
 僕は一人称で立つことすらも許されず、その絶望なる第一歩の歓迎会すら拒否される、最も不幸でもあり幸福な――唯一の空っぽヒューマノイド。
「……」
 声を出す意欲、そこまでもたどり着くまでゆうに数千里。無音であることの瑕疵さえも微塵も通ずることは皆無。
 しばらく傍観状況に推移を見守っていた。
 億千の時が優雅に宇宙で談笑したかもしれない。それは似非飛行のようでもあった。
 淡き黄昏に、白い蜘蛛糸はついついと滑らかな下降曲線を描き、音響事象を片手に舞散ってきたのだ。
「カケルやカケル。あなたの名前はカケルです……」
「え……?」
 白い手――と感知。そして存在証明としての二足女神の渇望が僕を新たなる事実として覚醒する。
 僕はリアリティを感じ、蘇った。
「ディア様ぁ……」
「うふふ♪ 何も考えなくていいのですよ? さぁ……」
「うむぷ……」
 女神の豊穣なるお尻が僕の顔面を封鎖した。もちもちとした美尻が鼻や口元にむにむにとまとわりついてくる。
 柑橘類のような甘い匂い、それも大地の恵みとリアリティを芳醇に吸収に真っ赤に熟した、じゅわりと内側から染み出る果汁が満喫できる満足感。
「お尻ぃ……甘いよぉ……」
「お尻だけじゃないんですよ?」
 白い女神の感覚が、僕の下肢までその安らぎを広げた。
 艶かしい羨望の美脚が、僕の胸板からおへそからそれ以上までぴったりと張り付き感動を与えてくる。
「んっ♪ あっそこぉ……♪」
「カケルは脚が好きですからね。ディア様はちゃんとわかっていますよ……」
「ふわ、ふわぁぁ……」
 二つの足裏が、僕自身を擦りあげた。生まれたての赤ちゃんのような、柔らかい感触に歓喜のおたけびをあげてしまう。不愉快な摩擦は存在しなく、ただ官能愛撫によりもたらされる安心感と性的欲情に意識レベルは集中していた。
「うふふ……♪ どうですか? 女神様の美脚におぼれ続けるのは……」
「あっはぁい……♪ 最高ですディア様ぁ……。脚好きぃ……僕好きぃ……。一生このまま、いや存在すらを美脚に……」
 僕はわかってないようでわかっていたのかもしれない。何よりもっと甘えてしまいたい。
 このまま女神様の深部に虜になるまでくわえ込まれていたい。
「出してしまいなさい。あなたは私のものになることを約束されています。この世界で、永遠にリアリティを拘束されることを……」
「うぁっ、それ嬉しい……。僕っああずっと誰かに……見てもらいたくて……だから僕……でも僕要領悪くて怠惰で……ああ、わからないわからないよぉ……」
 悩み倒錯する僕という僕。リアリティの埃――繊細な一欠けらが埋没した記憶を呼んだのだろうか。
「考える必要はありませんよ? あなたは私に忠誠を誓い続けるだけでいいのです。この女神様の美脚の下で……」
「むっ、むわぁ……♪ わかりました……僕はディア様に一生涯リアリティを捧げま――あああっ♪」
 僕はペニスをぐっとすりつぶされた。はじける射精の感覚の余韻。肉体の可能性は存在しない、感情だけの神聖なマインドエッチ――。
 僕とディア様、つながっている。意味不明な取捨選択を強制されない幻想の世界。僕は求めていた――。いつでも求めていた。
「ここも舐めるのですよ……。もっとつながりましょう。一つになりましょう」
「はいディア様……。ぺろ、ぺろ……」
 一番甘くて美味しい蜜が出る場所を舐めた。とろりと舌から浸透するそれは、直接的に感情を奮い立たせ惑わせ狂おしいほど高ぶらせた。
 ディア様が欲しい、もっと欲しい。僕自身、ディア様の中で生きたい。そんな思いに心が疼き、ぱっくり石榴のように開かれた古傷から異形の何かとてつもなくおぞましい身の毛もよだつ醜悪な――何かが訪れを告げる。
「ふふ。やんちゃですね。でも今はこの空間を楽しみましょう。脚で……ほらおイキなさい」
「ふわぁぁ……♪」
 僕は再び絶頂した。足裏でこねくりまわされながら、亀頭を指の股で荒々しく扱われて精液を漏らしてしまった。
 何も悩むことはなかったんだ。永遠の時の中で、僕はディア様と終わりのない共有を体現できるのだから。
「ディア様ぁ……ディア様もっとぉ……♪」
「あらあら……おねだりですか? いけない子……♪ でも、そういう子ほど気になりますね……それっ♪」
「むぅっ……むむ……」
 色のあるピンクの重力が僕をひっしりと押しつぶす。その勢いでまたペニスからリアリティの残滓がどっぷりと漏れる。
 無限の彼方に広がる白塗りの異次元に向けて、僕の存在証明を迷うことなく垂れ流し続けた。
「ああっ♪ また出るよぉ……♪ 止まらなぁい……♪」
「出しても出しても、また戻ってこれます。ディア様はいつでもそばにいますからね……」
「は、はい嬉しいです……。僕、僕……あ――」
 無明の一時に僕は咆哮し宣言する。
 裏表のない次元世界に、女神の御手により丁寧に折りたたまれた紙片の一部として、一輪の折鶴として高く飛翔し共鳴させた。



・勝った場合

「はぁはぁ……も、もう少しだ……」
 僕は必死で頑張った。これ以上ないぐらいの必死さで頑張った。
 めくるめく誘惑に耐え囁きに耐え洗脳に耐える。これまでマインドバトルで培ってきた経験は決して無駄ではない。
「ふふ……」
 悠然として口元に笑みを湛える邪教の女神。でも僕は知っている。白い像の歪みを如実に感じている。
 おそらくは最後の一撃――。それで僕はこの世界から脱出するんだ。
「えええぃ――」
 決まった。手ごたえは十分にあった。
 現に女神の像は人型の体をなしていなかった。蜃気楼のごとく歪み、周りの景色に滲み染み出るように朦朧混沌としている。
 やがて、ほのかで正体がつかぬ白色のそれは、まるで粉雪のようにさらさらと擦り落ちて実体をなくし次元の闇に消えていった。 
「はぁ……はぁ……」
 息を落ち着け感情を整理する僕。枚挙する安堵とも似つかぬ不思議な気持ち――。 
 勝った? 僕は勝ったのか?
 女神の脅威は完全に去ったように思えた。
 僕は……運命に勝った――のか?
「カケル……」
「うわぁっ!」
 僕は飛び上がってのけぞった。女神はまた存在していた。考えの甘さをまたも思い知らされた。結局は神様、僕がどんなに頑張っても手の届かない存在――。
「何をびっくりしているのですか? ふふ。よくやりましたねカケルよ。針の穴を通すような精緻な可能性――よもやあなたが突破できるとは思えませんでした。こればかりは私の範疇を超えた、いやあなたの意志の力が勝ったのでしょうか? うふふふ……」
「あ……はぁ……」
 胸をなでおろす僕。どうやら女神はもう僕をどうにかする気はないらしい。
 さっき大げさに消滅シーンを演じたのもわざとらしい。でも僕にはそんなことどうでもいい。この世界から今すぐ抜けだせるという希望と展望。まだ見ぬ未来が僕を待っていると心軽やかに期待しているからだ。
「は、早く僕を……」
「急かさないでください。私は約束はちゃんと守りますよ」
 女神の両手が合わさる。呪文のようなつぶやきがぼそぼそと漏れる。
 数秒後、空間にさっくりと裂け目ができていた。宇宙――無数の星空をバックに、細長い通路が揺らぎねじ巻きながら大口を開けていた。
 ここが本当に僕の世界へ通じているのだろうか? 沸き起こる疑念。本当に女神を信じて大丈夫なのだろうか。
 僕が逡巡していると、音もなく女神は横に立って静かに囁いた。
「臆してしまいましたか? 私はこの件に関しては、正真正銘一切合財の真実を約束します。このマインディアを救い、神である私すらも倒したあなたならば……これぐらいのことは簡単でしょう?」
「あ……うん……」
 抑揚のない女神の声が、心に響かずお腹から背中へとすり抜ける。
 なんだろうこの気持ち。必死で奮い立たせた希望は根幹から崩れ落ちてしまいそうだ。
 一抹の不安。僕は正しい方向に向かっていると感じているのに。
 いや、これは実際に正しい。正しいはずだという直感と確信。
 とにかく僕はこのままこの世界に居座る理由は存在しない。
 一歩、迷わず踏み出せばいい。僕ならきっとやれる。そうだそうだ――。
「いいいきます!」
 後ろは見なかった。僕は輝く未来を夢見て頭から飛び込んだ。



 
 ……
 ……
「はっ!」
 それは中空だった。重力という鎖と肉体に躍動する血液を同時に感じる。
 次々と感じるリアルな聴覚と視覚に、目まぐるしい脳内分泌が全身を喜びに躍らせる。
 ――僕はついに戻ってきたんだ!
 そう思った瞬間、僕は体を包み込む奇妙な違和感に気づいた。
 落ちている――落下。
 致死に至る重力エネルギーを内包し、記憶の司る走馬灯を描写する暇もなく、僕は灰色の地面めがけて最も不幸な口付けをした。
「ああぁぁっっぁぁ――」
 声帯が震えたわけではない断末魔の心の叫び。視界が一瞬で赤く染まり混沌が訪れる。
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――。
 マインディアは決して感ずるのことのない、肉体そのものに対する痛い。
 思考する余地、意識が途切れ脳が死に心が死ぬまでの数秒――その貴重な猶予も僕には許されなかった。
 なぜ? どうして? 
 僕に残るのは遠いマインディアの記憶だけ。
 僕は運命に勝ったはずだった。勇気を出して、あのほの暗い洞穴に……。
 間違い? わからないわからない。
 とにかく僕にとっての選択権は何も残っていなかった。
 ぐらりと最後の寝返りをうってみた。
 満天の星空が見えた。
 あの、光る星々の中の一つが、もしかしたら、マインディアではないかと。
 そんなことを、思い耽りながら目をつぶった。





 ……

 ……

 マインディアの女神はふと歪の淵に、上品な仕草で腰をかけてしおらしげにしていた。
 深い奈落の底が眼下に垣間見える。生命ある万物の生き物を、輪廻という定められた循環装置に攪拌し融合する高性能シュレッダーである。
 そこに彼女は網を張っていた。蜘蛛のように粘着質で残酷でもあり、かつ甘く蕩けるような抗いがたい優しい罠を。
 愚鈍な勇者はその網を抜けて落下してしまった。せっかくの美味しそうな獲物をみすみす逃してしまった。
 しかし彼女にとっては極めて些細なことだった。次のゲームを構成するために、従順なる人形を探すべく瞳をぎょろつかせていた。
「どうして彼はいってしまったんでしょうか? 自分だけが特別だと思ってしまった? せっかく私がマインドサキュバスの説明をしてあげたというのに……うふふふ……」
 女神は一人ほくそ笑む。独り言に自ら合いの手と相槌をうちながら。
「ふふふ……うふふふふ♪」
 ひとしきり笑い転げた。その姿は欲望をむき出しにわがままをいう幼女のようでもあった。 
 世界が闇に染まる。しんと辺りが静まりかえる。
 鋭敏な耳をそばだてる。感情の渦がどこからともなく伝わってくる。
 しだいにしだいに大きくなってくる。
 救われないリアリティの嘆き、悲しみ憤り。
「ああ……見える聞こえる。私が……私が救ってあげなくては。さぁ……その姿を……」
 女神は感知した。周囲に寄り付く何かを求めて蠢くもの達の存在を。
 それは不特定多数でもあり誰彼でもある。ただ女神の欲するのは、未だ本当の感情を解き放っていない、前途ある有望な勇者であった。
 そして女神は問いかける。甘く魅了されそうなほど狂おしい声で――。
「お疲れ様でした! 『幻想世界マインディア』いかがだったでしょうか? ええ、わかります。うんうん……はいはい……はい! 言いたいことはこのディア様が全部聞いてあげましょう。ん……はいそうですね。人にはそれぞれ千差万別如何ようにも感じ方があります。それは仕方のないことです……はい! ええ……でも一つだけ、完全なる究極の境地に到達することができるんですよ……。ふふ……その方法……知りたいですか? もうあなたは……知っていると思うのですが……」
 そこで女神は一人の背後に忍び寄り、柔らかな胸を押し当てそっと耳元で囁いた。
「やはり他人の物語では満足できないのですね……。あなたの心がそう言っています。あなただけ、あなたの理想とする世界をマインディアで形づくりましょう。そう……勇気を持って一歩踏み出すだけでいいのです。大丈夫……怖くはありません。ディア様がついています……。あなたの勇気が――希望に変わり世界を救うと信じて……。たった一度、勇気を見せるだけでいいのです。決して二度はいりませんが。さぁ……いらっしゃい。私のもとへ……。ん? まだ踏ん切りがつきませんか? ふふ安心してください……本当に痛くはありませんから。勇者だから特別扱いなんです。あなたの肉体を捨てようとする意志……それだけでいいのです。それだけで、マインディアの勇者として生まれ変わらせてあげます。あなたの願望をそのままに体現した……素敵な幻想世界の始まりです。さ、もう一歩踏み出してください。さぁ……」
 一人の青年が、女神の抱擁に取り込まれた。現実を直視できずに、女神の誘惑に負けふらりと心の扉を明け渡した。ただそれはある意味理想的な展開でもあった。
 背中に乳房をつぶれるほど擦りつけられ、耳の穴を濡れた舌先でねぶられる。心を白く塗りつぶす洗脳に、骨の髄まで支配された。
 深い谷底に向けて、止まらない歩幅に躊躇せず邁進する。
 思考の剥奪、地面との離脱。
 魂をリアリティに変える、神聖なる儀式が今始まった。
 新たなるマインディアの幕開けが今――。

 



  1. 2013/09/25(水) 22:30:22|
  2. SS
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